ヨーロッパの風力発電のいまを知る(前編)


「WindEurope TECHNOLOGY WORKSHOP 2021」参加レポート

ヨーロッパにおける風力発電の利用を促進する団体「WindEurope」が、年に一度開催している、ワークショップ「WindEurope TECHNOLOGY WORKSHOP 」。2021年はオンライン開催され、多くの風力発電関係者が集い、発表や議論が行われました。

風力発電の最先端を行くヨーロッパで、いま何が話題になり議論されているのか。ワークショップに参加したレラテックのメンバーが、イベントを2回にわたってレポートします。

 

風況調査のトレンドが変わった

――このワークショップはどのようなイベントですか?

内山 「WindEurope」という、ヨーロッパで開催されている風力発電の学会・展示会から派生したイベントです。ヨーロッパをはじめとした、世界各国の風況調査や洋上風力の関係者が集まり、みんなで議論します。

例えば、実際に風力発電を使っていくための応用面に特化した議論をしたり、発表をします。発表して終わりではなく、参加者全員で理解を深めようというムードがありますね。

洋上風力はヨーロッパの技術が先行していて、日本では得られない情報をここでは多く手に入れることができます。ヨーロッパで今何が行われているのかを知ることで、日本で提供するサービスに活かせればと、ワークショップに参加しました。

2021年はコロナ禍でしたのでオンラインでの開催でしたが、レラテックのメンバーのなかには過去にヨーロッパまで出かけて参加していた人もいます。

――ヨーロッパの技術がダイレクトに感じられる場所なんですね。

小長谷 そうですね。加えて風況調査のトレンドの移り変わりなんかも見えてきますね。例えば5年ほど前に参加したときには、フローティングライダーに関する発表が非常に多かったのですが、今回はほとんど話題になりませんでした。

フローティングライダー
洋上の浮体構造物に鉛直ドップラーライダーを設置し、上空の風をレーザーにより測定する装置のこと。
 

このことから、フローティングライダーはヨーロッパではある程度、成熟した技術になっていることが伺えます。

一方で日本では、フローティングライダーは未だ実用化の前の検証段階です。「日本の海域で使ったら、どのくらいの精度検証ができるのか」「乱流強度がフローティングライダーで精度よく測定できるのか」といったことを、現在進行形で調べています。そういった意味で、市場の進み具合の差を改めて感じました。

スキャニングライダーの3台使用で精度を高める

水戸 このワークショップで私が注目した発表のひとつは、通常1台で測定するスキャニングライダーを、3台置いて測るという検証方法です。

 スキャニングライダー
レーザービームを照射し、大気中の浮遊粒子による後方散乱を受信することで、大気を観測できる装置。沿岸に設置し、洋上に向かってレーザーを発することで洋上の風況を測定できる。

スキャニングライダーは首を振りながらレーザーを照射して、レーザーが通った部分の風況を測定します。

ただし、スキャニングライダー1台だけでは、レーザーの視線方向(レーザーの照射方向)に対して垂直な方向の風を計測できないため、風車の設計に必要な「風の乱れ」の計測精度が低下することがわかっています。

この問題を解決するために開発された方法が、「デュアルスキャニングライダー」です。

 

デュアルスキャニングライダー 
スキャニングライダーを2台置いて、同じポイントを別地点から照射することで、測定場の正確な風速と風向、風の乱れを計ることができる方法です。

日本国内でも、最近取り入れられている技術でもあります。しかし、2台だけでは鉛直方向の風をとらえられません。それを3台に増やすことで、3次元方向の風が計測できる。発表では、この3台のレーザーのなす角度とその計測精度に関しての検証がなされていて、とても興味深かったです。

小長谷 スキャニングライダーの3台使用に関しては、陸上で行う試みが検証されていました。基本的にスキャニングライダーは、洋上の測定を想定して作られた観測機器ですが、陸上で使用するメリットを提案した発表がありました。

例えば山の上などの風況を観測するときに、山奥にマストや鉛直ライダーを設置するのは大変です。でもスキャニングライダーなら、遠くからレーザーを飛ばして測ればいいわけです。

3台で計測できれば鉛直成分の風の向きにも対応できるので、日本のような複雑地形でも正確に測れます。日本ではまだ議論されていない方法だったので、発表を聞いて驚きました。

ライダーを補正する解析・シミュレーション技術の進化に注目

――シミュレーションについては、どのような発表がありましたか?

水戸 鉛直ライダーの補正方法について検討した発表がありました。

 鉛直ライダー
上空にレーザーを照射し、各高度の水平面を横切る風を捉える。

鉛直ライダーは上空にレーザーを照射して、風を計測するリモートセンシング機器です。

原理として、対象となる水平方向の風が一様に吹いている仮定があります。山間部のような、地形が複雑な地点で鉛直ライダーによる観測をする場合には、風が地形に沿って吹くために水平方向の風の一様性を仮定することが難しく、計測精度が低下します。

発表では、このような課題に対して、シミュレーションを用いた補正手法が紹介されていました。

また、発電量の評価のためのシミュレーションの発表も充実していましたね。風力発電において、発電量を見積もることは重要です。新たに発電所をつくるときはもちろん、すでに建てられた発電所を効率よく運用していくためにも、発電量を正確に知る必要があります。

このような補正技術の検証や発電量のシミュレーションは、日本ではまだあまり行われていません。これからの課題だと考えています。

――なぜ日本では行われていないのでしょうか?

見﨑 シミュレーションの開発研究を行うためには、実測のデータが必要になりますが、日本にはそもそもデータの蓄積がありません。その意味でも、風力発電の実用化が進んでいるヨーロッパでは、開発しやすい環境が整っているのだと思います。

(後編に続く)