2021年10月22日に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」において、洋上風力発電が「再生可能エネルギー主力電源化の切り札」として位置付けられ、さらなる導入拡大が期待されています。洋上風力発電所の事業計画策定にあたっては、安全性と事業性の評価のために、風況調査が重要な役割を担っています。今回は洋上風況調査の概要と日本における洋上風況観測について解説します。

洋上風況観測とは?

風力発電においては、風車設計の検討(風条件評価)と事業性の評価(発電量評価)を行うために、風況調査の実施が必要不可欠です。洋上風況観測は風況調査の一つであり、発電事業の実施可否を判断するための重要なファクターとなっています。

一般的に風況調査は、以下の三つのステップに分けることができます。

1. 風況観測
風況マスト、ドップラーライダーなどの観測機器を使用して風を観測
2. 風況シミュレーション
数値シミュレーションを用いて理論的に風況を推定する手法。CFDモデル、メソ気象モデルWRFなどを利用
3.風況解析
ウィンドファーム認証に係るサイト風条件評価、発電量評価を実施

風況調査の目的の一つである風条件評価とは、風車設計に必要となる風パラメーターを算出するものであり、認証のガイドラインを満たす手法が求められます。もう一つの目的である発電量評価とは、プロジェクト期間(一般的に約20年間)の発電量を予測するものであり、不確実性の少ない信頼性の高い手法が求められます。

風力発電のための風況観測では、風況マストと呼ばれる観測塔によって風況を直接観測する手法が基本です。風況マストによる風速・風向計測は直接観測と呼ばれ、「カップ型風速計」及び「ベーン型風向計」が使用されます。

しかし、風況マストを洋上での風況観測に用いる場合、多大な建設コストが必要となり、加えて、設置に関する地元との調整や許認可手続きなどに時間がかかってしまうという課題があります。

これらを解決するものとして期待されているのが、ドップラーライダーをはじめとしたリモートセンシング技術を活用した間接観測です。この技術は、風況マストでは観測不可能な高高度の観測や洋上での観測を目的としたものであり、風況マストによる観測を代替する手法として、ここ10年ほどで急速に発達しました。

ドップラーライダーとは、照射した光の散乱を利用して風況を観測する手法です。空気中の微粒子は風などの影響で速度を持っており、この微粒子にレーザーが当たるとレーザーの波長が変化するドップラー効果が発生します。この効果を利用し、波長の変化から風の速度を計測する仕組みです。これはスマートフォンに搭載されている、離れたものの距離を測るLiDAR機能と同じ観測原理になっています。

この手法により、従来の風況マストよりも安価に上空や洋上の風況を計測することが可能となりました。ドップラーライダーについては別途記事にて、詳細に説明しています。

ドップラーライダーには鉛直ライダー(Vertical profile LiDAR)、スキャニングライダー(Scanning LiDAR)、フローティングライダーシステム(Floating LiDAR System)の3種類がありますが、スキャニングライダーとフローティングライダーに関しては新しい技術であるため、本観測前の精度検証が必要とされています。

洋上風況観測における日本のあゆみ

国内における最初の洋上風車は、2004年に北海道のせたな町と山形県の酒田市に導入されました。2010年以降は、茨城県神栖市、長崎県五島市、千葉県銚子市、福岡県北九州市、福島県沖など全国各地で導入が続きました。

さらに、2023〜2024年には、一般海域における富山県入善沖のほか、港湾区域における秋田県秋田港・能代港、北海道石狩湾新港でウィンドファームが新設。現状における国内最大規模の洋上風力発電所として稼働しています。

2025年以降は、長崎県五島市、茨城県神栖市での増設に続き、再エネ海域利用法に基づき、洋上風力第1ラウンドの秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖の3海域(約1,690MW、134基)、および第2ラウンドの秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖、秋田県八峰町・能代市沖、新潟県村上市・胎内市沖、長崎県西海市江島沖の4海域(約1,790MW、112基)の運用開始が予定されています。

上記インフォグラフィックの詳細についてはこちらをご覧ください。

レラテックメンバーが参画した洋上風況観測における推進施策

レラテックは洋上を含めた風況観測のコンサルタントとして、各関係者とともにさまざまな施策に携わっています。2024年現在までの取り組みを紹介します。

  1. 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「着床式洋上ウィンドファーム開発支援事業(洋上風況調査手法の確立)」

先述のとおり、風力発電の風況観測において主力である風況マストによる直接観測は、今の日本の環境では非常に困難であり、その打開策としてドップラーライダー機器の活用が期待されています。しかし、ドップラーライダーを使用した洋上風況観測の手法が国内において統一化されておらず、大きな課題でした。

そこで、2019〜2022年、青森県六ヶ所村むつ小川原港湾内の施設を利用した、NEDOの「着床式洋上ウィンドファーム開発支援事業(洋上風況調査手法の確立)」にて、レラテックは神戸大学の一員として複数の機種を用いた精度検証などを実施。観測手法の特徴や課題の把握を可能にしました。

  1. 洋上風況観測ガイドブックの制作支援

上述のNEDO事業の成果として、2023年4月には、国内初となる「洋上風況観測ガイドブック」がNEDOより公開されました。こちらもレラテックは神戸大学として制作に関わっています。本ガイドブックの活用ポイントについては、別途記事をご覧ください。

  1. むつ小川原洋上風況観測試験サイトの開設

洋上風力発電事業で利用するライダー機器には、事前の精度検証が求められています。一方で、精度検証ができる公的なサイトは国内に存在せず、これらの整備が喫緊の課題とされていました。

そこで、洋上風況調査手法の確立を目指した前NEDO事業の終了後、2023年にかけてNEDO事業「洋上風況観測にかかる試験サイトのモデル検討・構築」にて、むつ小川原港を公的な試験サイトとして選出。風況観測に利用するリモートセンシング機器の精度検証が可能な国内一例目の試験サイトとして、2023年から むつ小川原洋上風況観測試験サイト(以下、「同サイト」)の運用を開始、施設設備や体制構築を実施しました。利用者に対し、精度検証試験サイトの設備の開放とともに洋上風況観測マスト等の観測データを提供しています。

2024年からは誰もが洋上風況観測装置の検証ができるサイトとして、神戸大学が同サイトの自立運用を開始しています。

  1. 一般社団法人むつ小川原海洋気象観測センター設立

むつ小川原の試験サイトの自立運用に際し、サイト利用者との間で迅速なやりとりを行い、今後の展開を臨機応変かつ効果的にするべく、一般社団法人むつ小川原海洋気象観測センター(略称:MOC)を設立。MOCには、レラテック、一般財団法人日本気象協会、北日本海事興業株式会社、株式会社神戸大学イノベーションの4社が参画しています。

日本の洋上風況観測の今後

日本における洋上風力は、先行しているヨーロッパに対して20年ほど遅れている状況です。ヨーロッパで活用している最先端の技術を参考にしつつ、日本の気象・海象に合わせた適切な洋上風力の導入に向けて整備を進めていく必要があります。

現状、日本においては、沿岸からの離岸距離が短く、水深が比較的浅い海域が開発対象であり、着床式の洋上風車が中心です。しかし、今後は水深が数百メートルになるような排他的経済水域(EEZ)での浮体式洋上風力発電の開発が想定されています。

この変化を風況観測の視点から考えると、国内での主な洋上風況観測手法であるスキャニングライダーで観測可能な離岸距離を超えることが想定され、認証機関から認められるデータを沖合で取れる技術がありません。そのため、フローティングライダーシステムなどを使用した、乱流のような細かいスケールの風況を観測する技術の確立が喫緊の課題となっています。

また、近年では風車が大型化し続けており、風車の中心部までの高さ(ハブ高)は150mにも達しようとしています。このような高さの風況マストを案件ごとに建設することは特に国内では現実的でなく、陸上でも洋上においてもライダー機器を用いた風況観測が重要になってきます。

ライダー機器による高高度の観測が正確であるかという基本的な精度検証が必要になりますが、そのような検証を可能とする高高度風況マストは日本国内には存在しません。今後、試験サイトのように皆が使用できる設備として導入が必要だと考えられます。

このようなライダー機器を用いた新しい風況観測手法の開発・導入は、風況観測技術の高精度化だけでなく低コスト化に貢献し、洋上風力発電市場全体の成長を支える礎となります。

しかし、これらの開発は膨大な時間と費用がかかり一筋縄ではいきません。そのために神戸大学らと共に整備・運営を行うむつ小川原洋上風況観測試験サイトを洋上研究プラットフォームとして活用し、ライダー機器を始めとした精度検証や技術開発に貢献したいと考えています。

日本の洋上風力発電を盛り上げていくためにも、レラテックはさまざまな関係者と協力しながら研究開発を進めていく所存です。私たちの取り組みは、単なる技術革新にとどまらず、未来のエネルギー基盤を築くための重要な一歩です。すべての関係者と共に、日本の洋上風力発電の未来を切り開いていく決意を新たにしています。

参考
NEDO, 洋上風況観測ガイドブック, 2023, URL: https://www.nedo.go.jp/library/fuukyou_kansoku_guidebook.html