2024年11月28日・29日に開催された第46回風力エネルギー利用シンポジウム(主催:一般社団法人日本風力エネルギー学会)にレラテックのメンバーが参加しました。このシンポジウムは、日本の風力発電に関する最新の学術的な動向が集まる大変重要な場です。今回の記事では、レラテックメンバーである小長谷、見﨑、中里、新宅が注目したトピックをご紹介します。また、レラテックの研究発表については技術Noteにてご紹介します。ぜひ併せてご覧ください。

参加メンバー
小長谷:レラテック代表。神戸大学の学術研究員として洋上風況調査に関する研究も実施。
(一社)むつ小川原海洋気象観測センター理事を兼務。 
見﨑:風況シミュレーション・解析を担当。神戸大学の学術研究員を兼務。 
中里:風況観測や解析、シミュレーションを広く担当。 
新宅:風況シミュレーション・解析を担当。

実用性の高いデュアルスキャニングライダー観測の不確実性評価

中里:シンポジウムのセッションにおいて風況分野の研究が年々増加する中、今年は「ライダー」で一つのセッションが設けられ、国内でのライダーに関する研究の発展を実感しました。 

特に『B1-3:デュアルスキャニングライダーの視線風速の精度検証およびサイト固有の測定不確かさの推定』のセッションは印象的でした。デュアルスキャニングライダーの観測における不確実性の評価において、海外のテストサイトや海外のモデルを活用していることが大変興味深かったです。 

注目すべきは、デュアルスキャニング観測の不確実性の評価に関して、WhiteBoxテストとBlackBoxテストという2つの手法を挙げていた点です。それぞれの長所と短所を述べた上で、定量的に評価しているところが参考になります。 

国内において、このような評価の実績はほとんどありません。今後は、本研究で示された手順を参考に、むつ小川原洋上風況観測試験サイトでもデュアルスキャニングライダー観測の不確実評価について取り組んでみたいと思いました。 

見﨑:この発表では、DNV/Vaisalaのガイドラインを基盤にしつつ、具体的な観測データを用いて手法や結果を解説していましたね。現場での実践に直結する、実務者にとって非常に実用性の高い内容でした。 

小長谷:デュアルスキャニングライダー自身の計測に関する研究開発は成熟しつつある領域です。今回はさらに一歩進み、洋上での乱流強度計測における誤差評価や補正手法も発表されていました。 

さらに、前年の見﨑さんの研究発表に続き、観測精度とデータ取得率のトレードオフに関する研究も進展が見られ、観測手法の発展を感じました。 

「ウェイク」がホットトピックに

小長谷:もう1つ特徴的だったのは、NEDO事業の開始に伴いウェイク(後流)に関する研究発表が多く見られたことです。風況に影響する重要な課題として、私もその成果や動向を注視していきます。 

見﨑:『B2-4:風況観測データの風車ウェイク影響除外に関する実績発電量データを用いた検証』の発表では、風況マストの観測データが周辺風車のウェイクに影響されるケースに対し、鉛直ライダーのデータと気流解析結果を用いた具体的な補正方法が提案されました。実務への応用が期待される内容でしたね。 

データの補正は本発表で示された風速だけではなく、風向や風速標準偏差にも必要であり、今後のさらなる研究開発に期待しています。 

風況観測・シミュレーションの最新情報

小長谷:洋上風況シミュレーションでは、神戸大学をはじめとする気象シミュレーションシステムWRFを用いた研究において、多岐にわたるトピックが扱われました。

具体的には、人工衛星観測データとの複合手法(B3-4 外洋におけるハブ高度風況推定技術の検討(その2)-衛星の観測頻度が推定精度に与える影響-)、日本海沿岸域の精度検証(B3-5 複数点の洋上風況観測による地形影響の考察とWRFの精度検証)、観測地点の代表半径の議論(B3-6 WRFと時別ベクトル補正を用いた沿岸風況推定に関する研究:観測値の代表性を考慮した手法の拡張の初期検討)における、洋上風力を計画する上で必要な情報を一元化した国内初の洋上風況マップNeoWinsの改訂(※1)に向けた推定精度向上などが挙げられます。 

中里:陸上風況観測で印象的だったのは『B4-6:200m高気象観測鉄塔データを用いた大気安定度の比較―日本国内の一般的な風況観測高度とローター面高度の比較―』の発表でした。

高高度マストを使用した検証事例はほとんど見たことがなく、長期間の観測データを解析した結果は大変貴重です。本研究で行われた大気安定度の定量的な評価は、洋上風力発電の発展や大型化する風車にとって非常に重要であり、国内導入の重要性を再認識しました。 

小長谷:この分野にてレラテックが関与した共同研究として、風速計の着雪・着氷に関する発表(B4-3:風速計の着氷・着雪による停止・減速条件の評価と風洞実験による検証)もありました。冬季風速観測の精度に関わる課題において、過小評価のリスクを指摘した内容は非常に重要であり、来年以降も継続して取り組むべき課題と考えています。

※1 NeoWins改訂について: https://www.nedo.go.jp/koubo/FF3_100397.html  

サンシャイン計画から50年。先人から学ぶ風況の過去と現在

小長谷:サンシャイン計画(※2)の計画開始から今年で50年を迎え、招待講演では日本国内での風力発電導入に向けた草分け的な研究開発や取り組みが紹介されました。 

現在当然のように利用されている風況マップや風況観測手法も、先人たちの努力によって築かれたものです。講義の中で、日本特有の台風や乱流強度による事故対応、安全基準の整備に関する歴史を改めて学ぶ必要性を感じました。 

新宅:三菱重工で長年風車開発に携わり、現在は大阪大学で教鞭を取られている柴田先生の講義、『大型風力発電技術開発』は特に印象に残っています。 

近年、風車の大型化がめざましいですが、講演内で20MW 以上の風車では大型化に伴うLCoE(※3)はそれほど下がらないと試算され、風車の大型化はこのあたりで一旦落ち着くのではないかという見解が示されていましたね。 

※2 サンシャイン計画:第一次オイルショックを契機に、過度な石油依存度を下げ、深刻化した環境問題の解決を図るため、1974年に策定された新エネルギーの技術研究開発計画 

※3 LCoE :Levelized Cost of Electricity, 発電所の計画から廃止までにかかるすべてのコストを現在価値ベースで評価し、それを現在価値ベースの発電量で割った値

シンポジウム全体を通して

小長谷:今回のシンポジウムを通じて、洋上風況観測や数値シミュレーション分野での研究開発の進歩を感じました。特に神戸大学によるライダーを用いた乱流強度計測は、沖合風況調査における重要な技術です。レラテックとしても神戸大学と連携し、その実用化に向けた研究開発を進めていきたいと考えています。 

また、ライダーの精度検証や補正手法に関する新提案も多く、むつ小川原洋上風況観測試験サイトを活用して早期に技術実証を進めたいと感じました。 

見﨑:風況調査に関してデュアルスキャニングライダーシステム観測に関する発表が多く見られた一方、フローティングライダーシステム観測に関する発表はほとんど見られませんでした。 

浮体式洋上風力発電のさらなる普及を見据えると、フローティングライダーシステム観測技術の重要性は今後ますます高まると考えられ、今後、関連発表が増えることを期待しています。 

レラテックとしても、これまでの実案件において培った知見を生かすだけでなく、研究開発の観点からフローティングライダーシステム観測に積極的に関与することで、業界の技術進展に貢献していく必要性を再認識しました。 

中里:特に鉛直ライダーやデュアルスキャニングライダーは本格的な商業利用が進んでいる背景もあり、運用における課題や改善に向けたさまざまなアプローチが提案されていましたね。 

一方で、国内においてフローティングライダーシステムやナセル搭載型ライダーについてはまだまだ研究開発段階にあり、技術的な課題や運用上の制約が多いことからも、事例もまだまだ少ないと感じました。 

今後は、レラテックとしてこれらの技術を用いた研究開発プロジェクトの参画を通し、技術的な評価のみならず、課題の整理や運用に向けたロードマップの策定についても検討していきたいです。 

新宅:研究発表では、九州大学のウェイク関連の発表が印象的でした。また、サンシャイン計画50周年記念ということで、日本における風力発電業界の黎明期を築いてこられた大先生方の講演も深く心に残りました。 

中でも、新規参入が難しい風車メーカー業界に挑んだ富士重工の事例では、若手グループが自主的な学びを形にし、製品化につなげたエピソードが紹介され、熱意や産学連携の大切さが今も変わらないことを実感しました。今の業務においても一つ一つ着実に課題を乗り越えていきたいです。 

レラテックでは風況コンサルタントとして、風力発電のための「観測」と「推定」を複合的に用いた、最適な風況調査を実施いたします。

参考 

見﨑豪之, 大澤輝夫, 小長谷瑞木, 嶋田進, スキャニングライダーの観測設定に関する感度実験, 第45回風力エネルギー利用シンポジウム予稿集, 2023, pp.17-20. 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jweasympo/45/0/45_17/_pdf/-char/ja
むつ小川原洋上風況観測試験サイト 
https://mo-testsite.com
DNV, Vaisala, Guidelines on dual scanning lidar measurements for wind resource assessments Rev. 0, 5th March 2024 
https://www.vaisala.com/sites/default/files/documents/WEA-ERG-Whitepaper-Guidelines-dual-scanning-lidar-measurements-WRA.pdf
NEDO, サンシャイン計画 50周年記念 特設サイト, 最終更新日:2024年10月4日
https://www.nedo.go.jp/activities/sunshine50th.html