日本の洋上風力産業をけん引するイベント「Global Offshore Wind Summit Japan(GOWS)2025」が秋田県にて開催されました。(2024年のレポートはこちらから)
レラテックからは代表の小長谷と、小宮山の2名が参加し、小長谷は「浮体式洋上風力のライフサイクルを通じた実現プロセス:バリューチェーン編」にて登壇。開発初期段階(Pre-FID)における風況調査の課題について発表を行いました。
本レポートでは、小長谷の登壇セッションをはじめ、印象的だった議論を取り上げながら、日本の洋上風力の現在地と今後の展望をまとめます。
小長谷登壇セッション「浮体式洋上風力のライフサイクルを通じた実現プロセス:バリューチェーン編」

セッションでは、浮体式洋上風力の事業全体を
① 最終投資決定前期間(開発期間/Pre-FID)
② 建設期間
③ 操業期間
の三段階に分け、それぞれのフェーズで発生し得る課題やリスクについて議論が行われました。開発期間の長期化、資材費の高騰、想定外の風況など、プロジェクトを通じて生じる不確実性をどのようにマネジメントしていくかが主要なテーマとなりました。
小長谷からは、①Pre-FID期間における風況調査の後戻りリスクに焦点を当てて発表を行いました。
近年、日本でも国主導による「セントラル方式」の風況観測が進みつつありますが、実務の現場では、観測データを“認証用”かつ“バンカブル”なデータとして扱うための制度的・品質的な基盤が、まだ十分に整っていません。
このような現状を踏まえ、次の3点を課題として指摘しました。
- 調査結果が認証用かつバンカブルなデータとして確実に認められる仕組みの必要性
- 高品質な風況観測の実施(地点数の確保、事前の精度検証、生データ開示など)
- 必要に応じた事業者による追加調査の重要性
また③操業期間においても、精度の高い採算性評価を行うためには、事前の風況調査(特に風況観測)の品質向上が不可欠であることを説明。高品質な風況調査を開発段階で実施することで、不確実性を低減し、将来的な採算性悪化リスクを抑制できることを強調しました。

会場は盛況で、浮体式洋上風力への期待の高さを改めて実感しました。
一方で、複数の登壇者からはコスト面の課題も指摘され、黎明期の市場形成にはFITなど公的支援の継続的な重要性が再確認されました。
こうした議論を踏まえ、日本では今後、1GW級や深海域での大規模導入を見据えつつも、段階的に成長していくためのロードマップ策定が求められることを強く認識しました。
浮体式洋上風力の確実な実装に向けて、開発初期からの高品質な風況調査が採算性を支える基盤となることを改めて示すセッションとなりました。
注目セッション①オープニングセッション

オープニングセッションでは、JWPA、GWEC、経産省、環境省、国土交通省の代表者が登壇し、洋上風力の導入拡大に向けた制度整備やリスク分担、国際協力などについて意見が交わされました。パネルディスカッションには、ドイツ、デンマーク、スペイン・バスク政府の担当者が参加し、各国の制度設計や国際的な展望について議論が生まれていました。
印象的だったのは、公募制度や洋上風力の戦略に関する議論です。事業者、インフラ事業者、政府がリスクを適切に分担し、対話を通じて制度を設計していくことの重要性が強調されました。デンマークやドイツでは、公募前に質問を受け付け、回答を公開するなど、透明で開かれた制度運用が定着しており、日本にとっても学ぶべき点が多いと感じました。日本でも行政と事業者の協議は進んでいますが、よりオープンで丁寧な対話の仕組みづくりが今後の課題として挙げられます。
また、戦略面では、バスク政府が官民一体で取り組む支援体制や、欧州企業のグローバルとローカルを結びつける経営戦略が紹介されました。海外の知見を取り入れながら、日本の技術力や地域経済への波及効果をどう高めていくか。グローバルな潮流を踏まえつつ、日本に最適な制度と産業構造を描く力が問われていると感じました。
注目セッション②金融パネル「洋上風力事業性の安定に向けた課題と解決策~ファイナンスの視点から」

金融パネルでは、日本政策投資銀行、三菱UFJ銀行、秋田銀行、コペンハーゲン・インフラストラクチャー・パートナーズ、ソシエテ・ジェネラルの登壇者により、洋上風力事業への投資姿勢やリスク分担、資金の多様化について議論されました。
国内外の金融機関がそれぞれの立場から今後の展望を語り、いずれも高い期待と積極的な投資意欲を示した点が印象的でした。特に国内金融機関からは、日本のエネルギー安全保障や脱炭素化への取り組みを、金融の立場から支える意思が感じられました。
一方で、海外投資家の資金を呼び込むための制度や市場環境は依然として発展途上であり、価格変動への対応やデータの透明性向上など、課題も多く指摘されました。また、金融機関が事業初期段階からリスク管理に関与することの重要性が強調され、開発から運営まで一貫したファイナンス体制の必要性が示されました。金融の観点からも日本の洋上風力産業が次の成長段階に入ろうとしていることを感じさせるセッションでした。
注目セッション③洋上風力サプライチェーンの現状と展望―国内調達と国際連携

本セッションでは、MHIベスタス、日鉄エンジニアリング、シーメンス・ガメサ、ユーラスエナジーの登壇者が、国産供給体制の構築と国際連携によるコスト低減の重要性について議論しました。風車メーカー、事業者、EPC事業者といった多様な立場から、国内でのサプライチェーン構築と国際的な協働のあり方が意見交換されました。
EPCの視点からは、大型施工船や港湾インフラ、部材供給体制の不足が課題として挙げられ、既存産業を洋上風力向けに転換していく必要性が強調されました。風車メーカーからは「一国完結ではなく、国際的なサプライチェーンに参画することが重要」との指摘があり、国内のサプライチェーン構築の目指すべき方向性について議論が行われました。
登壇者の多くが共通して、安定的な案件形成と長期的な需要見通しが投資判断の鍵であるとの認識を示しており、国としての戦略的方針と事業環境の整備の重要性が改めて確認されました。
注目セッション④漁業パネル「地域合意形成と漁業共生」

本セッションでは、洋上風力と漁業の共生が主要テーマとして取り上げられ、特に「法定協議会」の現状と課題について活発な議論が行われました。行政や事業者だけでなく、漁業者の立場から率直な意見が紹介された点が印象的で、現場の実情を直接反映した貴重なセッションとなりました。
改めて、洋上風力発電事業を「環境アセスのリスク回避対象」として捉えるのではなく、地域創生や漁業振興のパートナーとしてどう位置づけるかという視点が重要であると再認識する機会となりました。
漁業と風力事業の双方が利益を享受できる“Win-Win”の関係構築こそが、今後の地域受容性を高める鍵になるとの共通認識が示され、実務面でも多くの示唆を与える内容でした。
注目セッション⑤浮体洋上パネル「浮体式洋上風力開発と海域利用」

本セッションでは、浮体式洋上風力の沖合展開に向け、EEZ(排他的経済水域)を含むゾーニングと海洋利用計画の必要性について議論が行われました。沖合においても依然として漁業との共生が大きな課題とされ、浮体構造物が漁業資源に与える正負両面の影響については、今後の実証研究が不可欠であるとの指摘がありました。
特に、むつ小川原試験サイトで将来的に浮体が導入される計画があることから、同サイトでの漁業影響評価や共生実験の実施が有益であると感じられました。また、漁業者や有識者に加え、サステナブル漁業への転換を目指す企業も登壇し、従来の議論にとどまらない新しい視点が示された点が印象的でした。
レラテックおよびむつ小川原試験サイトとしても、海に関わる事業者の立場から、持続可能な海洋環境の形成と漁業の未来像を考えるうえで、こうした動向を注視していく必要があると感じました。
参加メンバーの所感
日本の洋上風力が、“本当の立ち上げフェーズ”へ(小長谷)
今回のGOWS2025では、日本の洋上風力産業が転換期を迎えていることを実感しました。Round 1における事業撤退は、市場の課題を象徴する出来事でしたが、一方で、国や自治体、業界関係者からは2040年の導入目標や2050年のカーボンニュートラル実現に向けて前進し続ける強い意志が示されていました。
会場では、「日本市場はいまだ黎明期にある」という共通認識が見られる一方で、過度な短期スケジュールやコスト圧力が市場の健全な成長を阻害しかねないという意見も多く聞かれました。今回の撤退は個別事例ではなく、構造的課題の表れとして受け止められており、今後の市場形成に向けた教訓となっています。
また、国主導による制度整備の重要性が改めて強調されました。セントラル方式による風況調査をはじめ、発電事業者が過大なリスクを負う構造を是正し、社会全体で支える仕組みづくりが必要だと感じました。国・自治体・産業界が連携し、安定的な成長を支える制度基盤を構築することが求められます。
日本の洋上風力産業は、政策支援・技術革新・産学官連携の三つを軸に、持続的成長を目指す再構築期にあります。一時的な後退を経て、むしろここからが“本当の立ち上げフェーズ”であるという空気感が、会場全体から伝わってきました。
“やり切る姿勢”が問われるフェーズに(小宮山)
GOWS2025では、事業者、サプライヤー、風車メーカー、EPC事業者、政府関係者、金融機関など、多様な立場の参加者が洋上風力に高い期待を寄せていることを強く感じました。市場全体として前向きな熱意がある一方で、制度や環境整備の面では依然として課題が多く、日本の洋上風力産業はいまだ黎明期にあると実感しました。
今後の発展には、国が明確な方針を示し、エネルギー安全保障や地域経済の観点から長期的に支援していく体制の確立が不可欠です。現段階では、プロジェクトを確実に完遂していくことが重要との共通認識がみられ、関係者一人ひとりの「やり切る姿勢」と実行力が求められる状況だと感じました。
当社としても、正確で信頼性の高い風況観測・解析を通じて、責任感と技術力をもって風況の分野から洋上風力事業の成功を支えていくことが求められると感じました。

レラテックでは風況コンサルタントとして、風力発電のための「観測」と「推定」を複合的に用いた、最適な風況調査を実施いたします。風況に関するご相談がありましたらお気軽にお問い合わせください。