(レラテック創業メンバー:左から小長谷、内山、水戸、見﨑)

ヨーロッパを中心に全世界で導入されている洋上風力。四方を海に囲まれた日本でもその拡大が期待されており、経済産業省が発表した「洋上風力産業ビジョン」では再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札とも言われています。

国内における市場に注目が集まるなか、レラテック株式会社は国内唯一の洋上風力に特化した、神戸大学発の研究開発型ベンチャー企業として誕生しました。民間企業を中心に、風力発電事業における風況観測、数値シミュレーション、データ解析などの風況調査に関するコンサルティングを提供しています。

レラテックの創業メンバーが、事業を通じて提供したい価値を語ります。

創業メンバープロフィール

代表取締役・小長谷 瑞木(コナガヤ ミズキ)

筑波大学大学院(気象学・気候学分野)を卒業後、10年間環境コンサルタントにて、主に再生可能エネルギーに関するコンサルティング業務に従事。2016年から神戸大学大学院博士課程に在籍し、洋上風況調査に関する研究を実施中。上記の在職中並びに在学中に得た技術及び人脈を活かして風力発電のための風況調査に特化したコンサルティング事業を行うために設立した、神戸大学発ベンチャー企業「レラテック㈱」において代表取締役を務める。

見﨑 豪之(ミサキ タケシ)

神戸大学大学院(海事科学)にて、気象モデルによる洋上風況シミュレーションの高精度化に関する研究に取り組み、博士(工学)を取得。日立造船株式会社にてゴミ焼却プラントのシステム管理業務に従事した後、東電設計株式会社では国内洋上風力案件の風況調査に取り組む。現在は、風況解析・シミュレーション業務を担当し、神戸大学の学術研究員を兼務。

水戸 俊成(ミト トシナリ)

東京都立大学(旧首都大学東京)の地理環境科学分野を専攻し、地理学(人文、植生、気候、地形地質、水文等)の知識をベースとして、それらの解析のための地理情報学(GIS等)や気象シミュレーション等を習得、修了した。修了後は、約7年間環境コンサルタントにて、主に再生可能エネルギーに関するコンサルティング業務に従事。業務では風力発電開発のためのライダーをはじめとした豊富な風況観測・解析業務を行い、ライダーに関した研究も複数実施している。

内山 将吾(ウチヤマ ショウゴ)

神戸大学大学院海事科学研究科在学中にNEDOや環境省の事業に携わり、観測値と数値シミュレーションを組み合わせた洋上風況推定手法を開発。また現在は同学科博士課程においてメソ〜マイクロスケールに特化したシミュレーション手法の開発に取り組む。同時に発電事業者に在籍し、国内外の陸上/洋上の風況解析やプロジェクト開発、並びに風車選定や調達、プロジェクト認証取得業務に携わる。本事業では技術面での貢献に限らず業界のニーズ調査や戦略策定に取り組む。

研究機関と民間企業をつなぐ。
洋上風力のプロフェッショナルとして民間企業をサポート

───レラテックを設立した背景を教えてください。

小長谷:まず市場の動きとしてここ15年ほど、これからの再生可能エネルギーには洋上風力が期待されると言われつつ、なかなか民間の発電事業がスタートできなかった背景があります。本格的な沖合洋上風力が動き出したのが、2020年くらいから。ところが新しい分野であるがゆえに民間企業の洋上風力発電事業をサポートできる専門家がほとんどいなかったんです。

レラテックの創業メンバーは4人共、洋上風力を始めとした再生可能エネルギーに関するコンサルティング業務や研究開発に従事してきました。経歴も洋上風況調査に関する研究実績を持つ者ばかりで、日本でも数少ない洋上風力のプロフェッショナルです。

国内における洋上風力発電の市場規模は、2030年度には9200億円まで成長するとされています。洋上風力発電の市場がいよいよ動き出すというタイミングで、民間企業をはじめ官公庁や自治体を専門的にサポートする受け皿になれればと、2020年11月にレラテックを設立しました。

見﨑:洋上風力について大学で専門的に研究し、民間企業で実践を繰り返してきた私たちだからこそ、できることがあるのではないか?という想いがありました。その気持ちはほかのメンバーも同じだったようで、2020年の5月に小長谷・内山と3人で集まったときに「僕たちがやるべきこと、できることってたくさんあるよね」と話しが盛り上がって。そこから具体的な起業の構想が固まっていきましたね。

水戸:レラテックでは洋上だけでなく、陸上風力発電のコンサルティングも行っていますが、「洋上風力に特化したコンサルティング会社」と打ち出しているのは、洋上風力開発のための気象シミュレーション研究の第一人者として、国内市場をリードしている神戸大学教授・大澤輝夫先生の存在が大きいです。レラテックの技術顧問をされています。

内山:大学では最先端の研究・調査のノウハウが常に開発されていますが、民間企業に落とし込むまでにはどうしてもタイムラグが発生してしまう。技術顧問としての大澤先生の力を借りながら事業展開をすることで、いち早く洋上風力の研究・調査のノウハウを民間事業に提供できるようになっています。

小長谷:そこに神戸大学発のベンチャー企業としての存在意義があり、私たちが大学の研究機関と民間企業をつなぐ窓口のような役割を担えればと思っています。

洋上風況調査に特化したレラテックが貢献できること

───洋上風力発電において、具体的にどのような依頼を受けることが多いのでしょうか。

見﨑:主に、風力発電事業者からの風況調査のご依頼で、8〜9割は民間企業からの相談です。洋上風力については、ここ2〜3年で既存の風力発電事業者に加え、新たに電力会社・商社が参入してきている印象です。洋上風力発電事業を展開したいが、そもそも風力発電事業の経験がなく、やり方もよくわからないといった問い合わせも多く寄せられますね。

小長谷:自社で専門的な技術や知識をまかなうのが難しい民間企業に対して、レラテックでは主に3つの柱からソリューションを提供しています。

  1. 新規に風力発電を導入するための事前の「風況観測」
  2. 開発サイト周辺の風況を把握するための「風況シミュレーション」
  3. 観測およびシミュレーションの結果を用いて行う「風況解析」

顧客が持つ課題や目的に応じて、部分的または一気通貫で手がけることが可能です。

内山:風力発電でもっとも大事なのは、「なるべく強い風が吹く場所に風車を建てること」「どこにどれくらいの風が吹いているのかを正確に把握すること」です。特に洋上風力において数千億規模の費用を銀行から融資を受けるときは、風力発電による発電量を正確に算出する必要があるので、風の観測は非常に重要です。

水戸:洋上風力は陸上に比べ、規模が大きく正確に風を測るのが難しい。より専門的な知識や高度な技術が必要だからこそ、洋上風力の専門家集団として価値を発揮できれば嬉しいです。

小長谷:洋上風力発電事業を検討する企業にとって相談しやすい存在でありたいです。発電事業者等に対して、低コストかつ高精度な最新の洋上風況精査手法を提供できるようなコンサルティングを実施していきます。

日本に適した洋上風況調査を実現し、国内市場をリードしたい

───民間企業に最先端のノウハウを提供したいという強い想いが伝わってきますね。

内山:国内のエネルギーの安全保障問題として、海外からの輸入に頼っている状況を少しずつでも変えていきたい想いがあります。この先も安心安全な電力を供給し続けられる国であるためには、自分たちの国でつくることができるエネルギー量を増やしていく必要がある。再生可能エネルギー、洋上風力がその部分を担えればと考えています。

見﨑:洋上風力発電の普及が進んでいるヨーロッパに比べて、日本の市場は20年遅れているとも言われています。ですので技術的にもヨーロッパの方がかなり成熟しているのは確かです。しかし、その成功事例をそのまま日本で再現するのは難しい。

理由は日本とヨーロッパの環境が異なるからです。例えばヨーロッパは、一般的に風が強く地形も平坦かつ浅瀬なので、洋上に風力発電を建てやすい。一方、日本だと遠浅の海域はかなり少なく、すぐに水深が深くなってしまうので、日本の海に適した洋上風力を建てるための技術を確立する必要があります。

内山:つまり日本に合った風況調査をどのようにするか?が大事になってきます。四方を海で囲まれる日本ならではの地形や環境に合わせたノウハウをどんどん蓄積して、国内のエネルギーを国内でまかなえるような仕組みを整えていく。それを担うのも、今後の私たちの重要な役割だと思っています。

小長谷:日本の陸上風力発電は20〜30年以上の歴史がありますが、洋上風力発電はまだまだこれから。洋上風力に特化している企業もなく、専門的に研究している人も少ないのが現状です。だからこそレラテックは、国内の洋上風力スペシャリストとして市場をリードしていければと思います。

(聞き手・執筆/貝津美里 編集/佐々木久枝)

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