レラテック創業メンバーの大学院時代の恩師であり、現在の技術顧問である大澤輝夫先生(神戸大学大学院海事科学研究科教授)と、洋上風力発電のこれまでとこれからを語りあう本特集。後編は、洋上風力発電において、レラテックや大学の果たす役割について話しました。

(左より、小長谷、大澤先生、見﨑)

レラテックが風力業界に果たす役割

――レラテックが誕生したことを、大澤先生はどのように思われていますか?

大澤 小長谷さんから起業するという話を聞いたときは、うれしかったですね。私としても非常にありがたい話だと思いました。もともと私は、研究を社会に役立てたいという想いが強かったのですが、大学にいると実現するチャンスは限られています。しかし、レラテックが神戸大学のベンチャー企業として誕生し、社会につながったことで、いろいろな可能性が開けていくと思いました。

また、大学内においても風力を研究している人は少ないので、相談できるパートナーがいるのは助かります。共同研究を行う際の窓口となってもらったり、こちらから仕事をお願いすることもあります。私自身の視野も広がりますしね。

小長谷 私も先生の考えと近くて、社会にどう役立つのかが見えていた方が研究のやりがいを感じるタイプです。風力発電分野は、研究面でも実務面でも課題がたくさんありますが、プレーヤー不足というのが大きな問題です。私たちが起業することで、産学連携の体制を実現できればいいなという想いがありました。研究室で得られた成果をすぐに実務に応用し、現場の課題を研究室にフィードバックする。そのスムーズな連携をレラテックが担っていきたいと考えています。

見﨑 そうですね。また、これから技術的な部分の裾野はどんどん広がっていくと思いますが、そこでもレラテックが役立てることは多くあるのではと思っています。

大澤 私やレラテックのメンバーのベースにあるのは、気象学という学問です。風力発電はもちろん興味の対象ですが、自然現象そのものにも学術的な興味をもっていることが、レラテックの一番の特徴であり強みだと思います。

将来的にこの業界が発展していく過程には、風力はやりたいけれども風のことはよくわからないという人たちも増えてくると思います。そういうときに気象学を学んだ我々は、風の性質をしっかりと示して、社会に風の知識を普及していく役割を果たしていく必要があります。自然現象としての気象に興味をもちつつ、その知識を工学的な風力発電の開発に活かしていきたいですね。

――大澤先生がレラテックに期待することは何ですか?

大澤 大学の教員としての立場から言うと、今の学生にとって、レラテックメンバーのキャリアパスは非常によいサンプルになると思います。自分たちのOBが起業して、研究内容を活かした会社を作ったのを目の当たりにできるのは、貴重な体験です。人生においてそういう道もあるのかと、起業やベンチャー企業への就職を選択肢のひとつとして考えてもらえるといいですよね。

もっと言えば、研究室で風況を研究して、そのままレラテックに入社するという選択肢も出てくるわけです。ただ、なかなか新卒でベンチャー企業に入るのは勇気のいることかと思いますが・・・。一度社会に出てみたけれども、レラテックの活動を見て面白そうだと思ってまた戻ってきてくれる人がいたら、それはそれでとても素晴らしいことですよね。

レラテックという存在にはもう期待しかありませんので(笑)、ぜひ風力業界を担う重要なプレーヤーとして活躍してほしいと思っています。

小長谷 レラテックとしても、ビジョンを共有してくれる人や、レラテックの事業に活かせる技術を持っている人がいたら、一緒にやっていきたいと考えています。昨年の12月に、海洋・気象研究室の学生のみなさんに向けて、風力業界を紹介するセミナーをやらせていただきましたが、そこでも研究者のキャリアパスとして、風力発電業界にいろいろな道があることを示せたかなと思っています。

見﨑 大澤先生はどうやって研究室に学生をリクルートしているんですか?

大澤 気象学の研究室は、昔から根強い人気があって、有難いことにみなさん自ら進んで来てくれます。気象というのは身近で体験している現象なので、興味を持ちやすいのかもしれません。ただ研究室に入ってくる人には、大きく分けて2つのタイプがあります。気象のことを学びたくて、その応用先として風力発電に辿り着く見崎さんタイプと、環境に優しいエネルギーに興味をもって洋上風力発電に興味をもつ小長谷さんタイプです。

学生に、「日本という国は資源がなくて、エネルギー自給率も低くて、たとえば石油の価格が高騰するととたんに経済が滞ってしまう。だからこそ、自国で生み出せるクリーンなエネルギーの開発が必要だよね」というような話をすると、やっぱりみんな興味を持って聞いてくれます。私たちのやっていることは、次世代においても必要な研究であるということに間違いはないので、そういった意味でも非常に説明がしやすい研究分野だと思います。

時流と技術に合わせて、柔軟に変化する組織でありたい

――レラテックのここまでの歩みを振り返ってみてどうですか?

大澤 1年目としては上出来ではないかと思っていますが、どうでしょうか?

小長谷 私は経営者としての経験がまだ豊富ではないので、正確な評価はしづらいのですが、1年生のベンチャー企業としては十分な成長が歩めたと思っています。風力業界の技術的なプレーヤーが足りていない状況で需要も多く、注目も集めやすい。そういう事情もあって、1年目にもかかわらず多くのお客さんから仕事をご依頼頂けたのだと思います。

見﨑 時流に乗れたのが一番大きいですね。ただ、変化が激しい業界なので、5年後にどうなっているかはわかりません。日本の未来に必要な業界とはいえ、この先さらに盛り上がっていくのか、それとも市場が落ち着いていくのか。そこは冷静に見定めていかないといけませんね。

大澤 技術の変化も速いですよね。現在研究している風況予測や風況観測に関する技術も、5、6年後には恐らく確立されていて、メンテナンスや運用のフェーズに入るわけですし。洋上風力の開発の状況に合わせて、会社の方針や業務内容を都度どう上手くフィットさせていけるか、そこが重要になってくる気はしますね。

小長谷 レラテックをどういった組織にしようかと考えたときに、「状況に合わせて柔軟に形を変えることができる、そんな組織がいいよね」ということをよくみんなで話しています。ニーズが刻々と変わっていく中で、それに対して自分たちも変わっていく。そんなことを考えながら、プロジェクトごとに最も高いパフォーマンスを出せる体制を試行錯誤していきたいです。

(構成/寒竹泉美 編集/佐々木久枝)

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