ヨーロッパの風力発電にまつわる研究や技術が一堂に会したWind Europe 2023。前半ではシンポジウムやポスター発表の様子をお伝えしましたが、後半は、展示会の様子と、そこから伺える欧州の風力発電のトレンドをご紹介します。
Wind Europe 2023 展示会の規模は日本の10倍。
注目したい2つのトレンド
日本でも毎年「WIND EXPO」という国際風力発電展が開かれていますが、Wind Europe 2023の展示会は、体感的にはその10倍ほどの面積と出展数があるのではないかと感じました。展示会を回って感じたトレンドは大きく2つあります。
トレンド① 浮体式洋上風力の拡大
浮体式は、海の上に基礎を浮かべ、その上に風車を建てる方式の風力発電です。海底に基礎を固定する着床式に比べて難易度の高い技術とされています。
遠浅の海に恵まれているヨーロッパでは、これまで着床式の導入が先行して進められてきました。一方で、日本のように深い海に囲まれている場合には、 浮体式の開発は喫緊の課題。10年ほど前から浮体式の実証試験を五島列島で開始していた日本は、世界でも最先端を走っていた状況でした。
しかし、Wind Europe 2023に参加してみて、状況が大きく変わっていることを実感しました。ヨーロッパにおいて浮体式は商業段階に達しており、日本はすでに追い抜かされていました。
洋上風車の基礎形式における種類
浮体基礎や浮体式洋上風車の展示ブース
建設場所に困っているからではなく、将来を見据えより高いポテンシャルを求めて、深海域まで風力発電所建設の範囲を拡大させているのが今のヨーロッパ。展示会でも、浮体式の基礎やその施工方法についてプレゼンする展示が多くありました。
カンファレンスでも浮体式のセッションが複数あり、それらのセッションはすべて満席であったことから、浮体式がヨーロッパでかなり盛り上がっていることが伝わりました。
下の図は浮体式洋上風力発電の導入予定量を示しています。
出典:国別における浮体式洋上風力の導入予定量(2022年までに公表された情報による)
10年前には最先端を走っていた日本ですが、現在ではトップ10以下となっています。一方で、日本を含む東アジア地域は、浮体式洋上風力の導入ポテンシャルが一番広がっているとされています。日本は、将来的に期待されるこの市場の中心になり得るチャンスがあると考えられています。今後スピード感を持って市場を主導できるのかが重要です。
また、沖合に風車を建てる浮体式は、発電した電気をどのように蓄えるか、それとも送電するかという問題が発生します。風車の周りには海水が豊富に存在するため、水素に蓄電するという手段が有用であり、水素と浮体式洋上風車を組み合わせた事例も発表されていました。
トレンド② フローティングライダーの乱流強度測定
フローティングライダーは、洋上の浮体構造物に鉛直ドップラーライダーを設置し、上空の風をレーザーにより測定する装置のことです。日本ではあまり使用事例が少ないですが、ヨーロッパにおいては信頼できる洋上風況観測の技術として、定着していると実感しました。
今回フローティングライダーの研究開発テーマとして注目されていたのは、乱流強度の測定です。
動く浮体の上で精度よく乱流測定を行うのは非常に難しく、それをいかに正確に測定するために、動揺補正をするかという研究発表がありました。ライダーの揺れを補正することで、かなり大幅に精度が改善できるという結論でしたが、まだそれでも、ヨーロッパの研究では風況マストを用いて行う乱流測定の精度には届いていないようでした。
レラテックの本社である神戸大学では、現在フローティングライダーの乱流強度の精度を風況マスト相当まで上げるための研究を行っていますが、この研究分野においてはヨーロッパから見ても最先端であることを実感しました。
ヨーロッパでは実績多数。ナセルライダーの実力
展示会におけるナセルライダーの展示(左:VAISALA, 右:ZX Lidars)
ナセル(風車の羽と塔体の中心部分)に取りつけて、風車前面の風況を測定するナセルライダーはさまざまな応用ができるため、2022年にIEC規格(IEC 61400-50-3:2022)に記載されており、ヨーロッパでは広く使われています。
風速に応じた発電量(パワーカーブ)を得られているかどうかをチェックしたり、ローターに正対した風を正しく受けているかを検知(ヨーミスアライメント)することができます。これをリアルタイムに観測して、風車の設定を随時変えていけば(風車制御)、効率的な風車の運用や故障を防ぐ使い方ができます。
日本ではナセルライダーの実績はまだ少なく、そのメリットもあまり知られていません。今回、展示会でナセルライダーの実物を見学し、どういう機種があって、どういう使い方をすれば良いのかを学んできました。この経験をレラテックのサービスにも活かしていきたいと思います。
巨大な洋上風力発電所の見学とデンマークの様子
Wind Europe 2023の参加後、アンホルト洋上風力発電所(Anholt Offshore Wind Farm)の視察にも行きました。
Anholt Offshore Wind Farmの風景
アンホルト洋上風力発電所は、デンマークとスウェーデンに挟まれたカテガット海峡に設置された巨大な洋上風力発電所で、3.6MWの風車が111基建てられています。運用開始された2013年時点では、世界最大級の洋上風力発電所の一つでしたが、それから次々と大きな洋上風力発電所が建設されており、現在は世界で26番目の大きさとなっています。
風車だけでなく、サブステーションと呼ばれる変電所に送電線を引っ張っているインフラの様子も見ることができました。
Anholt Offshore Wind Farmの洋上変電所(サブステーション)
111基が海上に並ぶ圧巻の光景。これが10年前に建てられたことを思うと、日本との差を考えさせられました。
また、余談ですが、日本との差という点では「働き方」の違いも印象的でした。デンマーク人は仕事とプライベートの時間を区切って、メリハリのついた働き方をしています。夕方になると仕事を切り上げて、夜は働きません。休暇もしっかりと取ります。同じ業界で働いている者として、技術だけでなく、こういった働き方に関しても見習うところが多々あると感じました。
おまけ
コペンハーゲンで食べた食事(写真左)と、人魚姫の像(写真右)です。人魚姫の像の大きさは125cm。有名なフォトスポットとして期待が高まっていたせいか、想像よりも小さく感じました。人魚姫の後ろに見えているのは、”コペンヒル”という廃棄物エネルギープラントで、人工スキー場などとしても利用されるレクリエーションセンターです。ここの屋上からMiddelgrundenなどの洋上風車も見えるので、コペンハーゲンに来た際には訪れるのも面白いかもしれません!
レラテックでは風況コンサルタントとして、風力発電のための「観測」と「推定」を複合的に用いた、最適な風況調査を実施いたします。風況に関するご相談がありましたらお気軽にお問い合わせください。