風況コンサルティング会社であるレラテックは、風力発電に関する風況観測・シミュレーション・解析を通じて、発電量予測と風車設計に必要な風条件評価を目的とした風況調査サービスを提供しています。

今回は、洋上風力発電に関わる事業者の関係性とその中での風況調査の位置付け、役割についてご紹介します。

洋上風力発電が社会実装するまで

日本において洋上風力発電事業を拡大させるにあたり、2019年4月に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が施行されました。これは、洋上風力発電において海域利用のルール整備などが必要となるために制定された法律です。

しかし、再エネ海域利用法の実施後、洋上風力発電の案件形成において、複数の事業者が同一海域で重複して事前調査を実施する非効率な状況が生じ、地元漁業における操業調節などの負担が課題となっていました。同様に、風況調査においても同じ海域を対象に複数の風況観測が同時に実施される事態が続いていました。

これらを解決するため、案件形成の初期段階から政府が主体的に関与し、より迅速で効率的に調査などを実施する仕組みとして「日本版セントラル方式」の確立に向けた制度設計が現在進んでいます。

日本版セントラル方式とは、「事業実施区域の指定及び発電事業者の公募」、「案件形成に向けた地域調整」、「サイト調査(風況・海底地盤・気象海象)」、「系統接続の確保」、「環境配慮」に係る事柄を政府機関等が主導で進めていく手法です。

2022年の法改正では、日本版セントラル方式の一環として独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による事前検証が可能になりました。

現在の洋上風力発電事業の開発プロセスは以下の通りです。

  1. 都道府県からの情報提供
  2. 法定協議会の設置・協議、もしくは国及びJOGMECによる風況・海底地盤調査
  3. 促進区域の指定
  4. 発電事業者の公募・選定
  5. 発電事業者による各種調査・許認可手続き
  6. 設計・建設
  7. 保守・運転 

風況調査は上記の中で主に「2.国及びJOGMECによる風況・海底地盤調査」と「5.発電事業者による各種調査・許認可手続き」の段階で実施されます。

発電事業は風況調査や地盤調査などの調査以外にも、自然環境への影響の調査や建設予定地の自治体や地元住民との協議を経て、実際に設計や建設のフェーズへと移行していきます。

風況調査の位置付けと役割

風力発電市場における主なプレイヤー関係は以下のように示すことができます。

発電事業者は、ウィンドファームの開発主体であり、多様なプレーヤーと協力をしながら事業を進めていきます。

ウィンドファームの社会実装までの流れの中で、コンサルタント会社は風力発電に関わるさまざまな助言を行うだけでなく、技術的側面でもサポートしています。具体的には、発電事業者と風車メーカー・レンダー等の間に入り、調査に基づいた中立的な評価をする「第三者機関」としての役割を果たし、発電事業者が担うべき発電設備の設計、建設、運転準備等を支援する「オーナーズエンジニアリング」を実施しています。

この中でレラテックは風況調査に特化した分野において、コンサルティングと調査のサービスを提供しています。サービスの主な顧客は、国内外の風力発電事業者、金融機関などのレンダーです。その他の顧客としては、風況調査を専門としない環境・建設コンサルタント会社や、国内に技術リソースがない外資系企業なども含まれ、これらのほとんどが発電事業者、研究機関、研究開発や調査案件の国家プロジェクトなどを元請けとしています。

2018年時点では、国内の発電事業者全体の約7割は、専業ディベロッパーをはじめとした専業系と電力会社をはじめとする電力系が占めていました。

近年では、成長する日本国内洋上風力市場における新規参入企業が多く、特に商社系企業や外資系企業の動きが活発です。洋上風力発電事業は、総事業費が非常に大きいことから、ステークホルダーに海外勢が含まれることが多く、国内と海外の両水準を満たすことが求められます。一方で、洋上風力発電事業の参入には資金力を重要視する流れもあり、特に発電事業者のプレイヤーにおいては「選択と集約」により寡占化が進むとの懸念もあります。

これらの顧客に対し、風況調査は風車設計のための検討(風条件評価)と事業性評価(発電量予測)を行うために実施され、風車選定や、発電事業を実施すべきか否かといった重要な判断の材料となる役割を担っています。

下図には洋上風力発電事業におけるフェーズごとのコスト構造が示されており、風況調査は先行して実施する「調査開発」に位置します。

洋上風力発電の運転開始後は、安全に事業を継続していくためのO&M(運用・維持管理)の役割が重要です。

以前、レラテックでは設備のメンテナンス技術者の育成を目的とする、一般開放型風力発電専門トレーニング施設である「FOM ACADEMY」を視察しています。詳細は対談記事をご覧ください。

日本の洋上風力発電事業をより活発にするために

2050年のカーボンニュートラルの達成に向けて、洋上風力発電は再生可能エネルギーの主電源化に向けた切り札とされています。

日本は2030年までに10GW、2040年までに30GW〜45GWの案件形成目標を掲げており、そのためには領海と内水を対象とした再エネ海域利用法による案件促進に加え、日本の排他的経済水域(EEZ)の活用が必須です。

日本の領海等概念図
出典:海上保安庁ホームページ (https://www1.kaiho.mlit.go.jp/ryokai/ryokai_setsuzoku.html)

2024年3月には、再エネ海域利用法の一部を改定する「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出されました。この法律案が施行されれば、EEZにおける再生エネルギー発電事業の開発が可能となります。

さらに、洋上風力発電事業の案件形成の促進において、海洋環境などの保全の観点から、領海及び内水の促進区域やEEZの募集区域の指定の際に環境大臣が調査を実施することとなり、環境影響評価法に相当する手続きを適用しない特例措置が創設されることになります。

EEZでの洋上風力発電の開発については、浮体式洋上風力発電が中心となりますが、風況調査の面において技術的な課題は多く存在します。このような沖合における風況調査の技術向上は、観測の高精度化だけでなく調査全体の低コスト化にも繋がるため、洋上風力発電市場の発展においてとても重要です。

観測機器の第三者による評価レポートのニーズが高まる

2024年から神戸大学は、ライダー観測機器の精度検証等が可能となる、日本初の一般開放された試験サイト「むつ小川原洋上風況観測試験サイト」の本格運用を開始。同時に、レラテックは一般財団法人日本気象協会、北日本海事興業株式会社、株式会社神戸大学イノベーションと試験サイトの運営法人むつ小川原海洋気象観測センター(MOC)を共同設立しました。

本試験サイトは、洋上風況観測に用いられるスキャニングライダーやフローティングライダーの精度検証に関わる研究開発に使用され、NEDO洋上風況観測ガイドブックや関連する研究成果に貢献しています。下図は本試験サイトにおける研究事例で、複数のフローティングライダーの風速観測精度を検証した結果を示しています。

当初の運営では、サイト利用者の測器の観測期間終了時に、試験サイトで観測したデータを提供し、サイト利用者側で比較検証を実施していました。しかし、実際に利用した方々の声から、利用者の測器が充分な精度を有しているかを示す、第三者評価の精度検証レポートを発行してほしいとの声が多く届けられ、ニーズの変化が見られました。

第三者による精度検証レポートの作成は、洋上風力発電の導入先進地域でもあるヨーロッパの文化の一つです。レポートの提出先であるレンダーや認証機関にとっては「どの専門家がその精度を評価したのか?」が重要視されます。

こうした流れの中で、風況コンサルティングは日本における洋上風力発電の導入促進に向け、風況調査の技術革新だけでなく、関係者のニーズに合わせた迅速で柔軟な対応が求められています。

今後、カーボンニュートラルの実現に向け、洋上風力発電市場ではスピード感を伴って、さまざまな試みが行われていきます。レラテックは、アカデミックをバックグラウンドに持つ特色を活かし、関係者の皆さんと共に風況観測の領域から日本の洋上風力発電の貢献に寄与していきます。

◼︎参考
一般社団法人むつ小川原海洋気象観測センター
https://moc.or.jp
海上保安庁, 管轄海域情報〜日本の領海〜, 日本の領海等概念図.
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/ryokai/ryokai_setsuzoku.html
経済産業省、国土交通省, 洋上⾵⼒の産業競争⼒強化に向けて, 2020年7月17日.
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/pdf/001_03_00.pdf
経済産業省, 「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました, 2022年3月1日.
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220301002/20220301002.html
経済産業省, 資源エネルギー庁,「日本版セントラル方式」における調査対象区域の選び方, 2022年9月30日.
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/yojo_furyoku/pdf/015_03_00.pdf
経済産業省, 資源エネルギー省,EEZにおける洋上風力発電の実施に向けたこれまでの議論, 2024年2月9日.
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/yojo_furyoku/pdf/023_02_00.pdf
経済産業省, 海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案,
2024年3月12日.
https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240312006/20240312006-ar.pdf
経済産業省,資源エネルギー庁, 国土交通省港湾局, 洋上風力発電に係るセントラル方式の運用方針, 2024年4月24日
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/dl/legal/central_unyou.pdf
むつ小川原洋上風況観測試験サイト
https://mo-testsite.com
MOC,【対談記事】MOC設立記念対談vol.2 一般社団法人MOC設立、日本の気象・海象技術の躍進へ。2024年7月9日.
https://moc.or.jp/20240705_interview2
NEDO,洋上風況観測ガイドブック, 最終更新日:2023年6月23日
https://www.nedo.go.jp/library/fuukyou_kansoku_guidebook.html
Uchiyama, S.; Ohsawa, T.; Asou, H.; Konagaya, M.; Misaki, T.; Araki, R.; Hamada, K. Accuracy Verification of Multiple Floating LiDARs at the Mutsu-Ogawara Site. Energies 2024, 17, 3164.
https://doi.org/10.3390/en17133164