はじめに

洋上風力発電の普及に伴い、高精度な風況情報の重要性が増しています。本研究は、メソ気象モデルWRF(the Weather Research and Forecasting model)の風速推定における地表面粗度長の影響を検討するものです。具体的には、むつ小川原(青森県)と波崎桟橋(茨城県)の2地点における風況観測データを基に、粗度長の違いによって、既知の問題であった陸風時における風速の過大評価傾向2)をどの程度改善するかを評価しました。 

粗度長とは、地表面の摩擦特性を表す指標で、地表風速の精度に大きな影響を与えます。洋上風況マップNeoWins1)の開発に使用されたWRFシミュレーションには、初期設定のUSGS(米国地質調査所)の土地利用データを基にした粗度長が使用されていました。今回は、より高精度な結果を得るために、気象庁の気象モデルNHM(Non-Hydrostatic Model; 非静力学モデル)の粗度長を一部修正し、利用しました。 

方法 

本研究では、ドップラーライダー観測データとWRFシミュレーションを比較し、2つの粗度長設定(USGSと気象庁)を使用して感度分析を行いました。表1に、風況観測の概要を示します。 

サイト むつ小川原 波崎桟橋 
計測機種 DIABREZZA Windcube V1 
観測期間 2017/06–2018/05 2015/10–2016/09 
観測高度 58–254m(5m 間隔) 47-207m(20m 間隔) 
表1 風況観測の概要 

今回は、NeoWins等を参考にして、500m解像度の計算領域でWRFシミュレーションを実施しました。図1に、WRF計算領域を示します。 

WRFシミュレーションについては、以下の2ケースを比較しました。 

  • WRF-CTRL:USGSの24種別土地利用に基づく粗度長を用いたケース 
  • WRF-JMA:WRF-CTRLをベースに、粗度長だけNHMの設定(のうち一部修正)に基づくケース 

本研究では、大気の安定度が中立条件となるケースを選定し、力学的要因(粗度長)によるWRF風速の誤差傾向を検証しました。 

結果と考察 

表2に、むつ小川原と波崎桟橋の大気中立・陸風時におけるWRF風速の平均誤差を示します。従来の設定(WRF-CTRL)は、陸風時に風速を過大評価する傾向が示されました。一方、WRF-JMAの設定を使用することで、陸風時の過大評価が大幅に改善されました。

サイト(地表高さ) WRF-CTRL WRF-JMA 
むつ小川原(99m) 27.0% +10.3% 
波崎桟橋(95m) +13.9% +3.0% 
表2 むつ小川原と波崎桟橋の観測風速を参照して得た 
大気中立・陸風時におけるWRF風速の平均誤差

図2に、海抜100m高におけるWRF風速の平均値の相対差の分布を示します。WRF-CTRLとWRF-JMAの風速を比較すると、粗度長の変更により、沿岸域での風速勾配が改善されることが示唆されました。これは、粗度長の違いが風速の減速効果によるものと考えられます。

まとめと今後の展望 

本研究では、WRFの粗度長設定を変更することで、風速推定の過大評価傾向を改善できることを明らかにしました。しかし、誤差の改善にはさらなる研究が必要です。今後は、以下の点に注力する予定です。 

  • 熱力学的要因の改善:地表温度や海面水温の最新データを用いたさらなる精度向上。
  •  ゼロ面変位の考慮:海岸防風林など、詳細な地形情報の反映。

参考文献

  1. NEDO, 洋上風況マップNeoWins
    URL: https://appwdc1.infoc.nedo.go.jp/Nedo_Webgis/top.html(アクセス:2024/12/20)
  2.  Misaki, T., Ohsawa, T., Konagaya, M., Shimada, S., Takeyama, Y., Nakamura, S., Accuracy comparison of coastal wind speeds between WRF simulations using different input datasets in Japan. Energies, 2019, 12(14), 2754.