2024年8月に公開されたOWA GloBEウェビナー内で紹介されたOWA GloBE (Global Blockage Effect)プロジェクト。レラテックの技術ノートでは、日本の洋上風力発電においても参考となるこのプロジェクトを2回に渡り解説しています。 

前回は本プロジェクトの概要と観測されたブロッケージ効果の成果をまとめました。今回は、観測されたウェイクおよびブロッケージ効果に対する数値モデルの再現結果や、それに基づいて策定されたガイドラインについて取り上げます。詳細内容は、こちらの動画で解説されています。ぜひ併せてご覧ください。 

はじめに

OWA GloBEプロジェクトとは

大規模洋上風力発電所におけるエネルギー予測精度の向上を目的として、ブロッケージ効果とウェイク効果のモデリング手法を検討したプロジェクトです。本プロジェクトでは、詳細な風況データの収集と数値モデルを用いた解析を通じ、これらの効果が風力発電所全体のエネルギー損失や再分配に与える影響を定量化しました。さらに、境界層(PBL: Planetary Boundary Layer)高度の重要性を示し、これに基づいたモデル改良も進められました。 

ブロッケージ効果の概要 

ブロッケージ効果とは、風力発電所の上流で風速が減速し(最大20%低下)、下流で加速(最大10%上昇)する現象のことです。これはウィンドファーム内の風速分布を再編成し、風車間でのエネルギー分配に影響を与えます。従来のモデルでは、この効果が十分に考慮されず、特に発電所クラスター全体でのエネルギー損失が過小評価されてきました。本プロジェクトでは主に、この効果を正確に再現する数値モデルを構築し、測定結果を用いてその妥当性を検証することを目標においています。 

詳細は前回の記事: OWA GloBEウェビナー技術解説①:ブロッケージ効果測定の成果と意義をご覧ください。

数値モデルによるブロッケージ効果の再現結果および課題

本プロジェクトで実施された数値モデルによるブロッケージ効果などの再現結果や課題は、下表のようにまとめられます。 

数値モデルによる再現の比較表 

モデル名 目的主な結果 計算コスト 課題 
Viscous Vortex (VV) モデル -ブロッケージ効果を非粘性(減速・加速)と粘性(ウェイク形成)に分解して解析。
– 境界層高度や熱的安定性の影響を再現可能。
– 測定データとの誤差±5%以内。 
– 境界層高度が高い場合、減速幅が最大15%減少。 
– 境界層高度が低い場合、減速幅が最大20%まで増加。 
中程度: 
1ケースあたり
約1時間 
– 大規模クラスターではさらなる計算負荷。 
– 境界層高度や安定性の設定が結果に大きな影響を与える。
RANS CFD モデル – 高度な流体力学解析を用いて、タービン間の風速分布や圧力場を再現。 – 測定データとの比較で風速減速(最大20%低下)を高精度で再現。 
– ウェイク効果の詳細解析が可能。 
高い: 
1ケースあたり
約10時間 
– 計算時間が長く、大規模な風力発電所やクラスターには不向き。 
PALM モデル – LES(大規模渦シミュレーション)を用いてブロッケージ効果とウェイク効果の詳細な相互作用を解析。 – 測定データとの誤差±3%以内で最高精度を実現。 
– 境界層高度変化による風速分布の影響を忠実に再現。 
非常に高い: 
1ケースあたり
約100時間以上 
– 計算コストが非常に高く、業界での実用性が低い。 
業界標準モデル – 簡略化されたウェイクモデルで迅速なエネルギー評価を実施。 – ブロッケージ効果を部分的に再現可能だが、誤差±15%程度。 
– 複雑な風力発電所クラスターでは精度が低下。 
低い: 
1ケースあたり数分 
– 境界層高度や熱的安定性を考慮できず、特に複雑な条件で精度が低下。 

メソ気象モデルWRFの役割

本解析では、メソ気象モデルWRFが、広域的な気象条件と境界層高度の解析において以下2つの重要な役割を果たしました。 

  • 境界層高度(500~1500m)の分布を方向別・速度別にテーブル化し、VVモデルやCFDモデルの入力データとしての使用 
  • 測定データと比較した際、WRFの境界層高度の評価値は平均で約10%高めに算出される傾向があり、この差異が結果に影響を与える可能性を示唆 

一方で、境界層高度の算出には、WRFのPBLスキームの特性による不確実性が含まれることが技術課題として示されています。 

境界層(PBL: Planetary Boundary Layer)について 

本解説内に頻出するように大気境界層(PBL: Planetary Boundary Layer)はブロッケージ効果に重要な影響を与えます。境界層は地表面の摩擦や熱交換による影響を直接受ける大気の最下層を指し、境界層の厚さ(高度)は、地表面の特性や気象条件によって異なり、洋上や沿岸では数百mから数kmの範囲で変化します。境界層の厚さが変化することにより、以下のようなブロッケージ効果に関連した影響が生じます。 

1. 風速の変化 

  • 境界層高度が低い場合、ブロッケージ効果が顕著になり、風速が最大20%低下 
  • 高度が高い場合、ブロッケージ効果が緩和され、風速の低下幅が10~15%程度に抑えられる 

2. エネルギー分配の変化 

  • 境界層内の風速プロファイルが風車配置による相互作用に影響を与え、全体の発電効率を変動させる 

数値モデルによる境界層の再現 

WRFモデルは、広域的な境界層高度を解析するための主要ツールとして使用されます。今回は、このモデルを使用した境界層高度の推定値が測定データより約10%高いことが確認され、風速分布の再現に影響する可能性が示唆されました。 

OWA GloBE プロジェクトの成果と課題 

主な成果 

1. ブロッケージ効果の実在性の確認 

  • 風力発電所内でのエネルギー分配における再分配効果が観測され、エネルギー損失が最大6%に達する可能性 

2. 境界層高度の影響の解明 

  • 境界層高度が低い場合、風速減速が20%近くに達し、ブロッケージ効果が顕著に 
  • 境界層高度が高い場合、ブロッケージ効果が緩和されることを確認 

3. 業界への貢献 

  • 「Joint Statement (共同声明)」として、業界全体での統一的なモデリングガイドラインを策定 
  • モデル選択の基準や使用時の留意点を提示 

技術課題 

1. 計算コストの削減 

  • LESやCFDモデルの実用性を高めるため、計算負荷を低減する手法が必要 

2. 未解明の物理現象 

  • 重力波やコリオリ力がブロッケージ効果に与える影響の解明 
  • ウィンドファーム(発電所クラスター)間での相互作用の詳細解析

「ガイドライン(Joint Statement)」の解説

Joint Statementについて

OWA GloBEプロジェクトの内容に基づき策定された、洋上風力発電におけるブロッケージ効果を正確に評価するための業界標準となるガイドライン(Joint Statement)は下表のように示されました。 

結論 詳細 
1. ブロッケージ効果の存在 – 測定データを基に、上流での風速減速(最大20%低下)および内部での風速加速(最大10%上昇)を確認。 
– 風車や発電所間でのエネルギー分配に再分配効果が発生。 
2. 物理的影響の特定 – ブロッケージ効果は、縦方向(streamwise)と横方向(lateral)のエネルギー再分配を引き起こす。 
– タービンや発電所単位で正負のエネルギー損失が生じる。 
3. 境界層高度の重要性 – 境界層高度の変化がブロッケージ効果の規模に大きく影響することを確認。 
– 高度が低い場合、効果が増幅(風速減速が最大20%)。高度が高い場合、効果が緩和(最大10~15%低下)。 
4. モデル間の差異と推奨 – モデル間の精度に顕著な差異(±10~20%)。 
– 3つのモデルカテゴリを提案: 
① Decoupled(簡易ウェイクモデル、低精度・低コスト) 
② Tightly Coupled(中精度・中コスト) 
③ Fully Coupled(高精度・高コスト)。 

推奨数値モデルについて 

ガイドラインにて推奨された3つの数値モデルの詳細は以下の通りです。 

  • Decoupled(独立モデル):ウェイクモデルとブロッケージ効果の解析を独立して行う手法。ウェイクモデルでタービン間の風速減速を計算した後、別途ブロッケージ効果を補正値として追加。  
  • Tightly Coupled(部分的な結合モデル):ウェイクモデルとブロッケージ効果を部分的に統合した手法。風速分布の減速をウェイクモデルに取り込みつつ、簡易的なブロッケージ効果をモデル化。 
  • Fully Coupled(完全な結合モデル):ウェイク効果とブロッケージ効果を完全に統合した手法。LES(大規模渦シミュレーション)やCFD(計算流体力学)モデルを用いて、風速分布やエネルギー再分配を詳細に解析。 

これら3つのモデル選択については、モデル検証の手法と共に以下の通りモデリングガイドラインにて記載されています。 

推奨されるモデリングガイドライン 

項目 詳細 
1. モデル選択の基準 – プロジェクト規模や目的に応じて適切なモデルを選択。 
① 小規模プロジェクトや初期評価: Decoupledモデル(簡易ウェイクモデル)。 
② 詳細設計や大規模プロジェクト: Tightly CoupledまたはFully Coupledモデル。 
2. 境界層高度の考慮 – 境界層高度を明示的にモデル化することが重要。 
– 境界層高度や熱的安定性のデータをWRFやライダー測定で取得し、モデルの入力条件として利用。 
3. 精度と計算コストのバランス – モデルの精度と計算コストを考慮し、プロジェクトフェーズに応じたモデルを適用。 
– 初期評価では低コストモデル、詳細設計では高精度モデルを推奨。 
4. 検証手法 – モデルの出力は必ず測定データ(例: ライダー測定)と比較して検証。 
– 測定データを基に、モデルパラメータを調整し精度を向上させる。 

まとめ 

OWA GloBEプロジェクトは、洋上風力発電所におけるブロッケージ効果の理解を深めるとともに、エネルギー予測の精度を大幅に向上させました。特に、WRFモデルによる境界層高度の解析や各数値モデルを用いた測定結果の再現は、従来モデルの限界を克服する重要な成果です。一方で、大規模なウィンドファーム(発電所クラスター)への適用や、コリオリ力など未解明の物理現象の影響に関する研究は、今後の課題として残されています。本プロジェクトで得られた知見は、今後大規模な洋上ウィンドファームの導入が期待されます。日本国内においてもブロッケージ効果の影響が顕著になると考えられており、技術的に有用な参考となる成果といえます。 

(執筆/小長谷 瑞木)

参考文献 

The Carbon Trust RWE, (2024, August 8th). OWA GloBE: Modelling and Accounting for Blockage and Wake Effects [Video]. YouTube. https://www.youtube.com/watch?v=thWK8KTJJAc