ヨーロッパの風力発電利用を促進する団体「WindEurope」(欧州風力協会)の年次イベントが2025年もデンマークのコペンハーゲンにて開催されました。レラテックからは見﨑・田内の2名が参加。それぞれ分野ごとの視点から、イベントの様子や業界の最新動向についてレポートします。前編では政治・経済の側面に注目、後編では技術的な側面に焦点を当ててお届けします。 

目次
1. トレンド① 政策・制度が左右する洋上風力の加速
2. トレンド② 水素製造と風力の連携に注目
3. 透明性のある事業運営の重要性
4. 環境意識と社会設計に見る欧州の成熟

WindEuropeの展示会場は、例年通りBella Center全体を使用して開催されました。日本の展示会「WIND EXPO」と比べると、体感で約10倍の規模と出展数があり、来場者の数も相当数にのぼります。 

カンファレンス・展示の中でも、このレポートで紹介する以下2つのトピックは特に注目を集めていました。

トレンド① 政策・制度が左右する洋上風力の加速

3日間にわたり開催されたカンファレンスでは、各国の政府関係者や業界団体の代表が登壇し、洋上風力の導入拡大に向けた政策や制度面での課題について議論が交わされました。 

欧州連合(EU)は2030年までに洋上風力発電60GW超という目標を掲げていますが、それに対して「許認可の遅れ」「送電網接続のボトルネック」「インフラ整備の遅滞」といった政府対応が必要な課題が多い点が強調されています。 

これらを踏まえ、日本においても制度整備と行政対応の加速が求められていることを改めて認識させられました。 

トレンド② 水素製造と風力の連携に注目

ポスターセッションでは、洋上風力由来の電力を用いた水素製造に関する展示が複数見られ、発電と蓄電・エネルギー転換を一体で考える「次のエネルギー戦略」の兆しを感じました。 

既に欧州において、この分野は大規模な商用化の一歩手前の状況です。これは、洋上風力の立地条件や水の利用という面でも理にかなっており、日本でも今後の技術開発・研究に注力することで、グローバルに通用する技術獲得の可能性を感じました。

透明性のある事業運営の重要性

「WindEurope」において、セッションと並ぶコンテンツの柱は、多様な企業・団体によるさまざまな展示です。北欧最大の展示場であるBella Center一杯に個性豊かなブースが並びました。 

特に印象的だったのは、デンマークの電力会社Orstedのブースです。過去のプロジェクトにおける失敗事例をあえて公開し、「失敗を隠さず共有することが、未来の洋上風力発展の礎となる」と明言。この姿勢は、今後洋上風力事業を進める日本にとって、透明性のある事業運営の重要性を改めて認識させるものでした。

また、Vestas、RWE、HITACHI Energy、DNVなどが構える大規模ブースでは、没入型のプレゼンテーションが展開され、聴講者にはワイヤレスヘッドフォンが配布されるなど、展示会全体としての体験設計も非常に洗練されていました。

環境意識と社会設計に見る欧州の成熟

また、コンテンツだけではなく展示会場の運営面でも多くの学びを得られました。特に展示会場で目にした環境配慮の数々は、強く印象に残るものでした。 

昼食には地元産・オーガニック素材を使用した植物由来のメニューが提供され、乳製品や肉の使用を減らすことで温室効果ガス排出の削減が図られていました。食材の余剰分は慈善団体へ寄付され、廃棄物はバイオガスとして活用されるなど、フードシステム全体がサステナブルに設計されていたことが印象的です。

また、会場カーペットがリサイクル資源として自動車部品に転用される仕組みや、プラスチック製品の多くが生分解性素材へと置き換わっていた点も、実践的な「環境配慮」が進んでいる証でした。 

さらに、デンマークという国自体の合理性にも驚かされました。地下鉄には改札がなく、自動運転で運行されており、駅員の姿も見当たりません。空港では手荷物預けや搭乗手続きがすべてセルフで完結。人口が限られる中でもサービスを維持する工夫が、日常の中に組み込まれているようでした。

風力の領域でもバードストライクへの対策、海洋生態系の保全、漁業関係者との合意形成といった社会的側面にも十分な関心が寄せられており、単なる技術展示ではなく多様なステークホルダーとの持続可能な関係構築が強く意識されていたことは、日本においても取り入れられるべき要素だと感じました。

WindEurope 2025の現場では、風力発電が、社会のあらゆる領域と接続するインフラとなっていることが実感できました。後編では、こうした社会的基盤の上で展開されていた技術的な潮流や研究動向に注目し、欧州の最前線で何が語られていたのかを詳しくレポートします。

(後編につづく)

レラテックでは風況コンサルタントとして、風力発電のための「観測」と「推定」を複合的に用いた、最適な風況調査を実施いたします。風況に関するご相談がありましたらお気軽にお問い合わせください。