「WindEurope TECHNOLOGY WORKSHOP 2021」参加レポート
ヨーロッパの風力発電の関係者が集い、最先端の技術が熱く議論された、ワークショップ「WindEurope TECHNOLOGY WORKSHOP 2021」。どのような話題が議論されていたのか、またヨーロッパと比べた場合の日本の課題は何か。ワークショップに参加したレラテックのメンバーのレポート後編です。(前編はこちら)
大規模ウィンドファームの課題
見﨑 今回のワークショップではウェイクとブロッケージの話題がとても多かった印象です。参加したルームのおよそ半分が、この2つの話題に着目していました。ウェイクに関しては、ここ10年くらいずっと研究されていますが、ブロッケージは最近のトピックですね。
ウェイク | 発電時における、風車の風下側の空気の流れ。風車前方と比較して、一般的に風速が低く、風の乱れが強いことが特徴。 |
ブロッケージ | 発電時の風車の上流側の風速が低減する現象。洋上のウィンドファームでは、単機の風車による影響の合計よりも大きくなることが明らかになっている。 |
欧州では、洋上に大規模なウィンドファームを建設すると、ブロッケージが発生したことにより風速が低減し、想定していたウィンドファーム全体の発電量を下回ってしまうという事例が報告されています。
そのためウェイクやブロッケージを精度良くモデリングして、シミュレーションする方法の発表や議論が活発に行われていました。
小長谷 4、5年前に学会に参加したときは、ブロッケージの現象があるという報告止まりの段階でした。それが今回は、予測シミュレーションやその精度検証にまで研究が進んでいて、強く印象に残りましたね。おそらく、これからどんどん研究されていく分野になるでしょう。
――大規模なウィンドファームが実用化しているヨーロッパだからこその研究ですね。
小長谷 日本では、洋上風車のウィンドファームはまだ稼働していないので、こういう研究自体多くありません。ウィンドファームを想定した研究は日本でも始まっていますが、シミュレーションによる予測結果の精度を検証するには、やはり風車実機がないとわかりません。日本はまだまだ、これからの分野だと思います。
ナセルライダーで風速を正確に観測する
――ほかに印象に残った発表はありますか?
小長谷 ナセルライダーを使って風況調査をした研究発表ですね。ナセルライダーは、風車のナセル(タワーの上部の発電機、制御装置などを格納する設備)に乗せて観測ができる小型のライダーです。
ナセルライダー ナセルとは、風車のタワー上でブレードの回転を支えている横長の筒状の部分のこと。ナセル搭載ライダーとも呼ばれ、ナセルの上に設置できる、小型の観測用ライダーです。 |
発表では、ナセルライダーを使って、風に対する風車の正対方位や風車の前面風速を計測していました。風車を建てる前に、期待された発電パフォーマンスを風車が発揮できているかどうかを検証するには、このような実測チェックが必要です。
これまで計測は、風車に設置した風速計で行っていました。ですが、そこで観測できる風は回っているブレードの影響を受けているため、正しい値にはなりません。
ナセルライダーならブレードの前方にビームを飛ばし、風車の前の風をとらえることができます。このような観測方法なら実際に近い、より正確な風況を測ることができます。
ナセルライダーは日本ではまだほとんど導入されていませんが、レラテックでは近いうちに効果を試してみたいと考えていました。その意味でナセルライダーの研究発表は、とても参考になりました。
洋上風況の実測データが少ない、日本国内市場の課題
――今回見えた日本の課題は何でしょうか。
内山 今回ワークショップに参加して、洋上風力発電における市場の成熟度の差を改めて実感しました。ヨーロッパのように実用化がどんどん進んでいると、実測データも経験値も蓄積されていきます。つまり開発も進みやすくなる。
ヨーロッパには公として利用可能な観測データが豊富にあります。洋上風力で成功している国のひとつドイツでは、2000年代くらいから洋上の風況マストによる観測が開始されています。しかもそのデータは、研究のために公開されていて、ドイツ国内だけでなく、日本人の私たちでも一定のプロセスをふめば使用できるのです。
早くから観測を始め、データを公開する形で研究開発が進められてきたヨーロッパでは、実用化へのハードルは低かったと思います。
一方日本には、そういった一般に公開された観測データがほとんどありません。これは大きな問題です。いくらヨーロッパの技術を導入しても「日本の海でどうなるのか?」という検証が行えなければ、開発は進みません。
現在レラテックは神戸大学とともに、洋上風況調査手法に関連する「NEDO事業」に参加していますが、そこでは一般公開される観測データがないことを重大な課題としています。これから解決の道を模索していかなくてはなりません。
日本の洋上風力は、およそ20年遅れて、ようやくヨーロッパの第一歩を踏み出そうとしている状態なのです。
見﨑 もちろん、これは業界全体の課題でもありますよね。国や行政や企業など、さまざまなところが連携してデータを提供するような体制を整えて、風力発電の普及につなげていきたいです。そのためにレラテックとして何ができるのかを検討していきたいです。
いつかアジアの洋上風力技術も底上げしていければ
小長谷 ワークショップでは発電量予測コンペも行われていました。定期的にあるイベントで、稼働しているウィンドファームの発電量を参加者で予測しあうコンテストです。
風況や発電量の実測値があり、それを隠して、その値に誰が一番近づくことができるかを競い合う。つまりシミュレーションの技術を競うんです。
見﨑 予測方法が異なるので、どれを用いれば、どのような結果が出るのかを検証して考察することもできます。それぞれの方法がもつ不確実性が明らかになることで、技術を高めていけるんですね。
――今後はレラテックも参加を考えているのでしょうか?
見﨑 そうですね。自分たちの予測がどのくらい合っているのかを、このような場でしっかり試せたら面白いですね。
小長谷 現在この発電量予測コンペの多くはヨーロッパ地域のみですので、アジアでも開催できたらいいのではと考えています。洋上ウィンドファームの導入は、日本より台湾の方が先行しています。
アジアの国々がこのようなイベントを通して情報を交換し、お互いに知見を増やしていくことができたら、日本だけでなくアジアの洋上風力発電を推進していけるのではないかと思っています。
(構成/寒竹泉美 編集/佐々木久枝)