本稿は、2021年11月に開催された第43回風力エネルギー利用シンポジウムにて発表された「メソ気象モデルによって算出される空気密度の精度検証」の一部を再編集したものです。

目次
  1. １．はじめに
  2. ２．方法
  3. ３．結果と考察
  4. ４．まとめ

１．はじめに

風力分野において、空気密度は発電量評価や風車設計に必要となる気象要素です。例えば、一般財団法人日本海事協会の「ウィンドファーム認証 陸上風力発電所編」1)では、風車設計のための風条件として、風車位置の発電時と暴風待機時における空気密度を算出することが求められています。

空気密度を簡易・広域的に取得するためには、メソ気象モデルWRF（the Weather Research and Forecasting model）2) によるシミュレーション結果が有用（図1）です。しかし、こうしたシミュレーション結果については、観測値を参照して精度を検証し、その誤差を把握・改善することが重要となります。そこで本研究では、WRFによって算出された空気密度の精度を、観測値を用いて検証し、その計算誤差について考察を行いました。

図1　欧州風況マップNEWA（the New European Wind Atlas）における空気密度の平年分布3)

２．方法

本研究では、洋上風況マップNeoWins4)の開発に用いられたWRFシミュレーション結果のうち、離岸距離30km以内を対象とした500m格子計算の1時間値を使用しました（表1および図2）。WRF計算結果の検証には、現場観測値として、気象庁のアメダスデータのうち国内142地点の気象官署（図3）における地上の気温と気圧を用いて算出した空気密度を使用しました。

表1　WRF計算条件4)

図2　WRF計算領域4)

図3　気象官署142地点の位置

３．結果と考察

図4は、気象官署におけるWRF計算値の気温、気圧、空気密度のbias（平均誤差）とR2（決定係数）の箱ひげ図です。Biasの絶対値は小さく、決定係数の平均値は0.97〜0.99となり、各サンプルの大半はばらつきも小さいです。これらの結果から、WRFが高精度に気温、気圧、空気密度を算出していることがわかります。

図4　気象官署におけるWRF計算値の(a)気温、(b)気圧、(c)空気密度の(1)bias と(2)R2の箱ひげ図
※ 図下部の数値は各統計量を平均したものである。

WRF空気密度の誤差傾向をより詳しく調べるために、図4のbiasについて海面更正気圧別に分けた結果を図5に示します。海面更正気圧が980[hPa]よりも大きいとき、biasは、前述の全サンプルの正負の傾向（図4）と一致しています。一方で海面更正気圧が980[hPa]以下のとき、biasは、それ以外のサンプルと比べて、気温の正値は小さく、気圧の正値は大きく、そして空気密度はわずかに正値となりました。この結果は、気圧が低下するような気象条件になるとき（低気圧や台風が通過するとき）には、WRFは気圧を過大評価することで、空気密度をわずかに過大評価するという傾向を持つことを示唆します。

WRF空気密度の精度を向上させるためには、そのもととなる気温と気圧の誤差を改善する必要があると言えます。RTIでは、こうした気象要素を含めて、今後もWRFシミュレーションの高精度化を目指して継続的に研究を進めていく予定です。

図5　気象官署における海面更正気圧別のWRF計算値の(a)気温、(b)気圧、(c)空気密度のbiasの箱ひげ図

※気象官署で観測された海面更正気圧を10[hPa]のビン毎に区分して各統計量を算出し、なお、サンプル数が30未満となる統計量については予め除外している。図下部の数値は各統計量を平均したものである。

４．まとめ

本研究では、気象庁のアメダス観測値を参照して、メソ気象モデルWRFによって算出される空気密度の計算精度を検証しました。以下に主な結論をまとめます。

  • アメダス観測値を用いて検証した結果、WRFが空気密度を高精度に再現できていることが明らかになりました。
  • 海面更正気圧別にWRF計算値を比較したところ、低気圧や台風が通過するときには、WRFは気圧を過大評価することによって空気密度をわずかに過大評価するという傾向を持つことが示唆されました。

参考文献

  1. 一般財団法人日本海事協会, ウィンドファーム認証 陸上風力発電所編, 2021, p.41, URL: https://www.classnk.or.jp/hp/pdf/authentication/renewableenergy/ja/windfarm/NKRE-GL-WFC01_July2021_Jpn_Corrected_October2021.pdf（アクセス：2022年2月2日）.
  2. Skamarock, W., Klemp, J., Dudhia, J., Gill, D., Barker, D., Duda, M., Huang, X., Wang, W., Powers, J. A description of the advanced research WRF version 3. NCAR Tech. Note NCAR/TN-475+ STR. 2008.
  3. The NEWA project, URL: https://www.neweuropeanwindatlas.eu/（アクセス：2022年1月11日）.
  4. NEDO, 洋上風況マップNeoWins, URL: http://app10.infoc.nedo.go.jp/Nedo_Webgis/top.html
    （アクセス：2022年2月2日）.