2024年8月に公開されたOWA GloBEウェビナーにて紹介されたOWA GloBE (Global Blockage Effect)プロジェクトは、大規模洋上ウィンドファームが稼働する欧州の先行事例として学ぶべき内容が多く、特に風況観測や数値モデル解析の手法において、日本の洋上風力発電プロジェクトにも参考にできる要素が数多く含まれています。

そこで、技術noteでは本ウェビナーの内容を2本立てで解説します。今回は、本プロジェクトの概要とプロジェクト内で観測されたブロッケージ現象の成果をまとめました。詳細については、こちらの動画で解説されています。併せてぜひご覧ください。

プロジェクトの目標

GloBEプロジェクトでは、以下の5つの目標を掲げて進められました:

  1. ブロッケージ効果の定量化:風速変化の観測および、そのメカニズムの解明
  2. 産業界での合意形成:ブロッケージ効果に関する標準的なモデルの構築
  3. 測定技術の最適化:スキャニングライダーを活用した精度の高い測定技術の採用
  4. データセットの構築:実測データを基にしたモデル検証用データセットの提供
  5. エネルギー収率予測の信頼性向上:大規模風力発電所での予測誤差の最小化

ブロッケージ効果の概要と重要性

ブロッケージ効果とは、風車列の前方で風速が一時的に低下する現象であり、大規模な洋上風力発電所で特に顕著に現れると言われています。この現象は、風車が風を受ける際に発生する空気の流れの変化に起因し、風力発電所全体のエネルギー収率に影響を及ぼすと考えられています。

従来、風力発電所のエネルギー収率予測では後流域でのウェイク効果(風速低下)が主に重視されていましたが、ブロッケージ効果を無視すると発電量が過大評価される可能性があります。そこで本プロジェクトにおいて、ブロッケージ効果を定量化し、収益予測の精度向上を図ることで、正確な設計と運用計画を可能にしました。

ブロッケージ効果やこのプロジェクトについては、以前のレラテック技術ノートにも紹介しています。併せてご参照ください。

プロジェクト背景:高精度な風況観測の必要性

ブロッケージ効果はこれまで理論的な仮説として知られていましたが、運用中の洋上ウィンドファームで詳細に観測された事例はなく、本プロジェクトはその初の試みといえます。特に洋上ウィンドファームの規模が大きくなるにつれて、この現象がより顕著になることが示唆されており、日本国内の洋上風力発電所でも発電量評価を正確に行うためには、ブロッケージ効果を考慮することが重要です。

本プロジェクトでは、風車列の前方で発生する1%以下のわずかな風速減衰を対象としており、この減衰を正確に測定するには非常に高精度な風況観測が必須です。そのため、採用された観測手法や補正・補完手法は非常に高度であり、風況観測の技術的進展において特筆すべき内容となっています。

ブロッケージ効果測定場所と期間

観測は、ドイツ北海のDeutsche Bucht地域(ノルトオスト洋上風力発電所)で実施されました。測定期間は2021年9月から2022年5月までの約9か月間に及びます。

主な観測装置と手法

以下の観測装置と手法が採用され、詳細なデータを収集しました。

観測手法使用目的配置・範囲主な特徴
スキャニングライダー水平方向の風速勾配測定。風速成分(U, V)と風向の解析。高度: 90 m
水平範囲: 最大 4 km
3ペアのデュアル観測を実施。地球曲率補正、動的モーション補正、ドローンによる角度校正を導入。
フローティングライダー上流基準風速の測定。3地点(観測近傍、上流基準点、観測マスト近傍)で移動。ブイ上の鉛直ライダーによる海面動揺を考慮した観測。スキャニングライダーのデータ補完として利用。
洋上風況観測マストデータ検証、ABL(境界層高度)の測定。ノルトオスト風力発電所内。超音波風速計(最大16 Hz)と気象センサーを装備。大気安定性や海面温度も測定。
境界層高度測定ライダー境界層高度(ABL)の測定。高度: 0~2,000 m
(主に500 mまで)。
スキャニングライダーを使用。VAD法(Velocity Azimuth Display)で水平風速と風向を解析。

データ補完および補正の対処方法

正確で信頼性の高いデータを得るため、本プロジェクトでは以下のような補正・補完手法が採用されました。

補正・補完手法課題対処方法効果
地球曲率補正地球曲率により遠方の高度が高く測定される。高度データを地球曲率を考慮して補正。スキャニングライダーによる遠距離観測での風速・風向データの精度向上。
動的モーション補正タワー動揺が観測ビームに影響を与える。加速度計・ジャイロセンサーで動揺を計測し、補正。最大角度変位を0.1度未満に低減。動揺の影響を排除し、正確なデータを取得。
ライダーの角度校正ライダーのビーム方向のずれによる誤差。ドローンを使用したRTK技術※1でビーム方向を高精度に校正。ライダーのビーム方向を実空間と一致させ、観測精度を向上。
データ補完欠損データが発生する場合。フローティングライダーやメタマストのデータを補完。線形補間やパワー法則を適用。欠損データを埋め、風速分布を再構築。
時間同期の確保装置間での時間ずれが観測整合性に影響を与える。ラインオブサイトアンテナで同期化し、タイムスタンプを統一。全観測装置間でデータ整合性を確保。

※1RTK(Real-Time Kinematic Positioning)技術:高精度な位置情報をリアルタイムで取得するための衛星測位技術です。通常のGPSやGNSS(Global Navigation Satellite System)を基にしながら、基準局と移動局のデータをリアルタイムで補正することで、測位精度を大幅に向上させることができます。

観測結果

  1. ブロッケージ効果の確認:
    • 風車列の前方で風速が最大5%低下(特に風速4~12 m/sの範囲で顕著)
    • 下流では、特定の条件下で風速が1~3%上昇(加速効果)
  2. 大気境界層高度(ABL)の影響:
    • 境界層高度が低い条件では、ブロッケージ効果が強まることを確認
    • 観測結果とモデルデータの比較では、境界層高度が測定値で平均300~400 m程度となり、モデル予測と良好な一致を示す

観測データは、新たなブロッケージ効果を再現する数値モデルの検証に利用されました(詳細は第2回目の解説)。特に270度±5度の狭い風向ビンで確認されたS字型の風速変化曲線は、ブロッケージ効果のメカニズム解明に重要な情報を提供しました。

風車列の上流(下図の左側)では、風速が徐々に減少(ブロッケージによる減速)し、風車列の付近で最も低下(最大5%低下)しています。一方で、風車列の下流(下図の右側)では、風速が再び回復し、一部では加速効果(風速が1~3%上昇)が確認され、風速分布が横軸(距離)に対してS字型の変化を示す結果となりました。

このS字曲線の意義は、以下のように指摘されています。

  1. ブロッケージ効果のモデル化
    • S字型の風速変化曲線は、ブロッケージ効果が単なる減速現象ではなく、風車列全体と周囲の大気との相互作用による複雑な動的現象であることを示唆
    • 測定結果を基に、新たなブロッケージ効果モデルの検証と開発が進められた
  2. 風速とエネルギー収率の関係
    • S字型曲線を考慮することで、風力発電所全体のエネルギー収率予測の精度が向上
    • 特に、風車列全体の設計や運用計画において、より現実的なシナリオを想定可能
  3. 測定技術の重要性
    • 狭い風向ビン(±5度)内での高精度測定は、スキャニングライダーの精度補正(動的モーション補正やRTK技術)によって実現
    • 観測精度を向上させることで、これまで曖昧だったブロッケージ効果の特性を詳細に解明

JIP方式による産業界の連携

本プロジェクトは、Carbon Trustが主導するJoint Industry Project (JIP)方式で実施され、業界全体の収益性向上とコスト削減を目指して進められました。このような産業界の連携は、日本の洋上風力発電分野でも参考にすべき取り組みです。JIP方式を通じて、技術的知見の共有やコスト効率の向上、標準化の促進が実現されており、日本国内のプロジェクトでも応用が期待されます。

JIP方式を通して、本プロジェクトは以下のように成果をあげました:

  • 技術的知見の共有:パートナー間で測定技術やモデル化のノウハウを共有
  • コスト効率の向上:スキャニングライダーを活用し、高価なフローティングライダーを抑制
  • 標準化の促進:業界全体で統一的な評価基準を策定

この成果より、今後の日本国内においても技術課題に対して業界内で協力体制を構築し、スピード感を上げて対処することが必要と考えられます。

まとめ

GloBEプロジェクトでは、ブロッケージ効果の詳細な測定が行われ、業界全体での技術的知見が共有されました。その結果、風力発電所のエネルギー収率予測の精度が向上し、今後の研究や技術開発の基盤となる重要なデータが提供されたことは、洋上風力発電の未来に向けた重要なマイルストーンになったと言えます。

一方で、今後の課題と展望として、主に以下の3つが指摘されているため、今後の動向も引き続き注目していきます。

  • 季節変動の影響:測定期間が秋冬に偏り、夏季データが不足している
  • ABLモデリング:境界層高度と大気特性の相互作用に関する詳細な解析(次の記事で触れます)
  • 長期的プロジェクトの必要性:より広範なデータ取得と技術発展を目指す

本技術ノートでは、大規模洋上風力発電所でのブロッケージ効果を実測した事例をまとめました。ブロッケージ効果は1%程度の風速減衰であれど、広範囲に影響するため、高精度な風況観測が必須です。次回はブロッケージ効果の数値モデル化を紹介します。

(執筆/小長谷 瑞木)

参考文献

The Carbon Trust RWE, (2024, August 6th). OWA GloBE: Measuring the Global Blockage Effect[Video]. YouTube. https://www.youtube.com/watch?v=x-QP4X0Dfb8