Wind Europe 2023 欧州の洋上風力のトレンド(前編)


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ヨーロッパの風力発電利用を促進する協会「Wind Europe」の年次イベントが2023年も開催されました。コロナ禍にはオンライン開催もされていましたが、2023年はすべて対面形式。4月25~27日の3日間、デンマークのコペンハーゲンで行われました。レラテックからは小長谷と中里が参加。小長谷は8年ぶり、中里は初めてのコペンハーゲンです。

この技術noteでは、レラテックが注目したWind Europe 2023のポイントを前編・後編でレポートします。

多彩なテーマと盛んな議論で盛り上がる会場

デンマークのコペンハーゲンで開催された、Wind Europe 2023。桜が咲く4月のコペンハーゲンは、北欧の国デンマークの長くて暗い冬がようやく終わり、人々も春が来た喜びに浸っているように見えました。

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会場のBELLA CENTER

会場内には広いホールが5つあり、非常に多くの展示ブースがありました。隣接したスペースでは、カンファレンス(口頭発表、ポスターセッション)が行われていました。

登壇者は、発電事業者のデベロッパーやコンサル会社、研究所などの方々で、実務に関した専門的な内容が多い印象でした。

風力市場の動向やサプライチェーン、再エネの政策など、幅広いテーマで熱い議論とディスカッションが繰り広げられており、内容も充実、レラテックが主に取り組む風況のセッションだけでも4時間ほどありました。

また別会場ではポスターセッションが行われていました。

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実務的な内容が多いカンファレンスと比べると、ポスターセッションは学術的で研究開発要素が強いものが多くあり、企業の発表だけでなく、大学や研究所の発表もありました。また、ヨーロッパ以外にもアジアや北米など、他の国からの参加者も多く、日本の参加者のポスター発表も見かけました。

Wind Europe 2023に参加して、特に注目した点を3つご紹介します。

大規模な観測でブロッケージを解明する

風車が複数並んでいるときに発電量が想定よりも低くなる「ブロッケージ」という現象についての研究が、Wind Europe 2021のレポートでお伝えしたところから、さらに発展していました。ブロッケージ現象の解明に取り組む体制を複数の会社で組み、大規模な調査を行ったという発表がいくつかありました。

例えば、国内では、風況調査のための観測を行う際、サイト毎にスキャニングライダー2台を1セットとして行うデュアルスキャニング観測が一般的となりますが、今回の発表では計6台使用して行う等、観測規模の大きさには驚きました。

このブロッケージという現象はまだまだ解明できていない段階なのですが、このような現地調査を経ることで定量的に把握・評価できるようになると期待します。一部の数値モデルには、実際にブロッケージ効果が考慮できるモジュールも追加されており、これらの精度検証などにも注目しています。


ブロッケージの解明に向けた観測キャンペーンの概要(Rodaway, C., RWE, 2023)

JIP (Joint Industry Project)方式による研究

日本で研究開発をする際は、民間企業では投融資や出資を受ける他、国の補助金や助成金を得て行います。しかし、欧州では「JIP (Joint Industry Project)」と呼ばれるユニークな方式で、前述のブロッケージ効果の調査のような、大きな事業を進めることが可能です。

JIP方式とは、発電事業者を主体とした協議会を作り、複数の民間業者から開発資金を拠出する形の技術開発事業を言います。共通の課題を持った会社や研究機関がお金を出し合うことで、スピード感を持ってプロジェクトを進める協力体制で、このJIP方式で成果が出たという研究発表を多く見かけました。

これからは日本でもJIP方式を実施していくことが大切なのではと考えています。1社のみでは難しい大きな課題を関係者全員で協力して乗り越えていく体制は、洋上風力の市場が正しく成長する上でも、大変重要だと実感しました。

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ブロッケージの解明に向けた調査におけるJIP方式による体制(Rodaway, C., RWE, 2023)

ICTの発展によってデータ解析の幅が広がった

風車を運用すると、さまざまなデータが大量に蓄積されます。洋上風力発電分野で日本の20年先を行く欧州では、今、その大量のデータをどのように活用していくかを考えていくステージにいます。今回のイベントでは、風況分野のみに限らず、AIやディープラーニングの活用の発表が目立ちました。

特にO&M(維持管理とメンテナンス)分野では、運用により蓄積されたデータをAIで解析し、故障の予知や回避を行えるような研究がされており、AIやディープラーニングと技術が活用されている事例が増えていました。

その背景のひとつには、CPUよりもデータを大量に素早く処理できるGPUが普及したことで、大規模な計算が出来るようになったことが考えられます。複数のシミュレーションモデルを組み合わせて、複合的に解析する検証なども行われており、技術的にもかなり難易度の高い解析が多数発表されていました。

さらにIT系の会社がオフィシャルパートナーとして参入していたり、研究発表しているIT系企業も見かけました。以前は、風力関係事業者のみでしたが、また次のステージに入ってきているのだということが肌身で感じられました。


GPUを用いた大規模なLESシミュレーションの概要(Kantharaju, J., GE, 2023)

技術が進めば、長期間の気候の変動を考慮して、20年、30年先を予測して風車を立てることもできるようになるのかもしれません。

このようなさまざまな解析やシミュレーションを行えるのは、風車や風況に代表されるようなデータが多く共有されているおかげとも言えます。また、LCOE(Levelized Cost Of Electricity;均等化発電原価)を下げるためにも、JIP方式を始めとした、データ共有を含めた研究開発が役立っています。

日本では慣習として、データを共有して研究開発を実施する事例がほとんどない状態です。特に洋上におけるデータは事例を得ることが難しく、どのように共有して研究成果を生み出すかは、今後の大きな課題と感じています。

現在、レラテックでは、NEDO事業の一環として、青森県のむつ小川原港に新しい試験サイトを作っています。これは、日本でもデータをシェアできるような環境を公的に作るための取り組みで、まさに、このデータ共有問題を解決する方法の一つです。

一方で、ヨーロッパでは、FINOのような公的なデータ共有プロジェクトがもう20年も続いており、現在ではJIP方式で大きなプロジェクトをスピード感を持ちつつ実施しています。その強みを改めて実感しました。

後編では展示会の様子と、デンマーク北部の巨大な洋上風力発電所を見学した感想をお伝えします。

(後編につづく)

レラテックでは風況コンサルタントとして、風力発電のための「観測」と「推定」を複合的に用いた、最適な風況調査を実施いたします。風況に関するご相談がありましたらお気軽にお問い合わせください。